健康・介護

〈介護〉 家事の負担を軽減しよう㊦ 2025年8月27日

十分頑張っているから、サービスを使って

 介護は「自分がやらなければ」と抱え込みがちです。しかし、ちょっとした工夫やサービスの導入で、驚くほど気持ちが軽くなることがあります。罪悪感を抱えながらも頑張りすぎてしまう介護者に向け、家事や生活支援をどう活用すればよいか、介護者メンタルケア協会代表の橋中今日子さんに聞きました。(㊤は、8月20日付に掲載)
 

介護者メンタルケア協会代表  橋中今日子さん
罪悪感との戦い

 介護の中でも大きな負担となりやすい「排せつケア」ですが、その内容は、排せつ物の処理やおむつ交換だけではありません。着替えの洗濯・準備、臭い対策、着脱しやすい服の工夫など、さまざまな苦労があります。
 また、要介護者が施設や病院にいても、衣類やおむつを家族が用意し、持ち帰らなければならないケースもあります。
 私の知るあるご家族は、毎週、施設へ届け物や持ち帰りをしていました。しかし、仕事が忙しくなり、それすらも困難になって悩んでいました。その方に、私が提案したのが、「忙しい時だけ宅配を利用する」方法でした。着替えを送り、使用済みの物は箱を用意して着払いで返送してもらう形です。
 当初は「せめて、これくらいは自分でやらなきゃ」「こんなことでお金を使っていいのかしら」と、申し訳なさや罪悪感を口にされました。そこで私は「忙しい時だけでいいんですよ。余裕ができたら、また会いに行けばいい」と伝えました。
 もちろん郵送の費用や受け取りの調整、施設へのお願いなどは必要です。けれど、月4回行っていたのを1回だけ宅配にするだけで、その週末は休むことができます。現在も忙しい時にはこの方法を続けており、「やってみたら本当に楽になった」と話されています。
 

家族は“ラスボス”

 きょうだいや親族を頼ることもあると思いますが、お願いすること自体、とてもエネルギーを使います。
 私も、ショートステイへの送り出しをきょうだいにお願いした際、荷物の準備を説明していなかったために、「なぜ準備ができていないの」と怒られてしまったことがあります。お願いする時には、細かく手順を分けて説明する必要があるのだと、反省した出来事です。
 私の場合は、その後も協力をお願いできたのでよかったのですが、勇気を出してお願いしたのに、もし、むげに断られたら2度目はお願いする気持ちになれないと思います。ですから、私は家族へのお願いを最終手段、いわば“ラスボス”だと考えています。期待しすぎず、手伝ってくれたらラッキーくらいの気持ちでいることが大事です。
 最初はプロにお願いして、心に余裕ができた時に、家族に小出しに頼んでいくのがよいと思います。
 

小さな一歩を体験

 新しいサービスを紹介する時、必死に説得すればするほど、相手は身構えてしまうものです。もし断られても、まずは「嫌なんだね」と受け止め、何が嫌だと思ったのかを一緒に確認するにとどめましょう。大事なのは、次の機会にまた話してみようと思えるような、明るいやりとりです。
 説明は最小限にして、「試しに1回」やってもらうのが効果的です。例えば、食事の宅配なら「今度の水曜日、お弁当が届くから受け取ってね」とシンプルに伝えるだけで十分です。
 私の知り合いの母親も老老介護をしていましたが、最初はサービスの導入を拒否していました。しかし、水回りの掃除を週1回だけ外注することから始めたところ、母親の負担が軽くなり、精神的にも安定。夫にきつく当たることも減ったそうです。その後は、冷凍弁当や総菜も利用するようになり、結果的に介護全体の負担がずいぶん軽くなったといいます。
 小さな一歩を体験して慣れることが、次のサービス導入にもつながります。
 

自分を休ませる

 介護が行き詰まり、生活そのものが崩れてしまうケースもあります。介護に関する痛ましいニュースも報じられています。
 私もその苦しさを実感している一人です。1回の食事介助だけでも1、2時間かかる日々で、頭が真っ白になって食事を食べさせられなくなる。疲れ果てて「もう嫌だ、見たくない」と思ってしまう。相談する気力もなくなり、昨日までできていたことが突然できなくなってしまうのです。こうした状況では、家事なんて手につきません。家はぐちゃぐちゃです。
 家族以外の人が、家の中に入る機会も大切です。人の目があることで、「もう無理です」と言えるようになる。そうやって気持ちを言葉にできるだけでも救われます。
 多くの介護者は「家事は自分がやらなければ」と思ってしまいます。しかし、介護を続けている皆さんは、もう十分頑張っています。家事を外に託すことは手抜きでも、ぜいたくでもありません。まずは自分を休ませる時間を取り戻してください。そのためにサービスを使ってほしいと思います。
 

 はしなか・きょうこ 理学療法士。公認心理師。リハビリの専門家として病院に勤務する傍ら、家族3人の在宅介護を21年間続けた。自身の介護疲れを機に、心理学やコーチングを学ぶ。現在は、介護者メンタルケア協会代表として、介護と仕事の両立で悩む人、介護に不安を感じている人に「がんばらない介護」を伝える活動を全国で展開している。
 

〈原稿募集〉
こころの絆

 読者の体験談「こころの絆」では、皆さまの介護体験を募集しています。内容は自由です。“わが家流”の介護の取り組みなど、皆さまの体験談を聞かせてください。
  

介護のホンネ
遠距離介護の悩み

 遠距離介護は、移動の時間や交通費の負担、会えない不安の蓄積など、離れているからこその悩みや苦しみがあるものです。遠距離で介護を支えた皆さまの苦労や工夫を募集します。
 

〈要項〉

 ■応募するコーナー(「こころの絆」か「介護のホンネ」のいずれか)、氏名、住所、年齢、性別、職業、電話番号を明記してください。
 ※介護のホンネは、匿名希望でも応募できます。
 ■字数の目安は400字程度。氏名入りで掲載された方に、図書カードを進呈します。
 ■趣旨を変えない範囲で添削させていただく場合があります。
 ■原稿が当社のウェブサイトに掲載されることもご了承ください。
 ■原稿は返却しません。同内容のものを他紙誌に送ることは、ご遠慮ください。
  

〈宛先〉

 [郵送] 〒160-8070 聖教新聞「介護」のページ係
 [メール] dokusha@seikyo-np.jp
 [ファクス] 03(5360)9610
  

 ▶紙面への感想や、介護について知りたいテーマなども、ぜひお送りください。