企画・連載

〈SDGs×SEIKYO〉 食べるだけじゃない「応援」とは?――広島カキ養殖の今 2022年3月1日

 海を取り巻く環境の変化が今、海産物に影響を与えています。広島県産カキの養殖に励む羽釜光治さん(35)=広島県廿日市市、男子部本部長=を訪ね、ブランド産地に対する応援消費のあり方を考えました。(取材=内山忠昭、石塚哲也 写真=綿谷満久)
  

この記事のテーマは「海の豊かさを守ろう」

 穏やかな波と適度な潮の流れ、本州と四国の山々の栄養が育んだ豊富な植物プランクトン――こうした瀬戸内海の生育環境がもたらすカキは、古くから栄養価の高い食品として珍重されてきた。
  
 中でも、「広島県産カキ」は生産量全国1位を誇る、誰もが知る“カキブランド”だ。2019年次は国内総生産量(むき身)の、実に64・6%を占める、1万7928トン。そんな「海の豊かさ」に支えられてきた広島のカキが今、大きな岐路に立たされている。
  
 その最大の要因とされるのが、近年の海水温の上昇だ。伝統の自然採苗(カキの幼生をホタテの貝に付着させること)をはじめ、カキ養殖の多くの過程では、海水温の変化を利用し、カキの生育を進める。だが、近年は秋口でも水温が下がらず、高いまま。「それだと、カキが大きくならないんです」と羽釜さんは語る。
  

 県内では後継者問題も相まって、カキ養殖業者の経営体数は一番多かった時から7割減。息子たちと働く父・眞次さん(69)=副支部長=は、複雑な心境を打ち明ける。「年々、海の様子が変わっていく。最近は熱帯魚も見掛けるようになった。このままでは広島でカキが取れなくなるかもしれない」。将来を見据えれば、不安は増すばかり。それでも眞次さんは「この仕事を続けることに誇りを感じています」と。
  
 羽釜さんが家業を継ぐようになったのは、4年前に亡くなった母・京子さんの存在が大きい。生まれてすぐ無呼吸発作で生死をさまよった羽釜さんに、母はよく「地域の学会員のみんなに祈ってもらって、あなたは生きているんだよ」と語ってくれた。
  
 「創価学会の看板があるから負けられない」と懸命に仕事に励んできた父と母。同業者や地域の多くの人に「父ちゃんと母ちゃんには世話になったんだ」と言われるたびに、「だんだん、目の前にあることを一生懸命にやることが、親孝行、地域貢献なんじゃないかと思うようになりました」。
  

 カキ養殖に携わって13年。カキが育つのが当たり前でなくなる中で気付いたことがある。「広島のカキ屋はどれだけ、瀬戸内海の恩恵を受けてきたか。海への感謝とともに、家族や地域、取引先や学会の同志、自分を守ってくれている人たちへの感謝を忘れてはいけない」
  
 漁業者自体が環境に与える影響もある。養殖の過程で使用するプラスチックのパイプなどが米国・アラスカ沖まで流れたり、鳥が食べて死んでしまったりしたというニュースもあった。羽釜さん一家は、行政や漁業組合挙げての海岸清掃に協力するとともに、独自に植林活動なども行ってきた。だが、「養殖業者だけでなく、地球規模で海のことを考えていかないと、とても間に合わない」。
  
 広島のカキを守るのは並大抵のことではない。昨今は産地偽装といった新たな問題も出てきている。そんな中でも、羽釜さん一家は、岡山や九州、四国の同業者へも広島のブランドカキの幼生を安価で分け与えている。「誰かが一人勝ちしても仕方ない。『自分さえ良ければいい』という発想は結局、良い結果にならない。だけどね、広島の海でつくるカキが一番うまいんだよ」と眞次さん。
  

 変化を強いられている生産者。ブランドを守る誇りが彼らを支えている。だが、あらがえないほど、急激に変わっていく海や気候。消費者は「食べる」以外にも、できることがあるのではないだろうか――。
  
 羽釜さんは言う。「人と人、人と海。自分の行動も全て、どこかにつながっている。SDGsって、そのことを感じることじゃないかな」。私たちのちょっとした行動の変化が、巡り巡って「広島県産カキ」を守ることにつながる。
  
  
  
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【羽釜さんのインタビュー記事はこちら】