企画・連載
〈カキケン特集〉 ルポ 全国未来部夏季研修会――背中を押された私たち。今は前へ走ってる。 2025年8月14日
全国未来部夏季研修会(通称=カキケン、8月5~7日)に向け、5月は参加を迷う高等部員を未来部担当者や家族がそっと背中を押し、6月は、参加を決めたメンバーが事前研修会で初めて顔を合わせました。7月は本番を思い描きながら、それぞれの地で勉学や部活に励み、8月5日にカキケンが幕を開けました。ここでは4人の高等部員に密着し、迷いも不安も抱えていた心が、この夏、どのように変わっていったのかを追いました。
5月のある日、山形総県の吉田未来部長から、カキケン参加への誘いを受けた髙橋蓮人さん(山形県、高校2年)。返した言葉は、あまりにあっさりしたものでした。
「別に行っても行かなくても、どっちでもいいかなぁ」
16歳らしい率直さ。その裏には、どんな思いがあったのでしょうか。
県内の進学校に特待生として通う蓮人さん。午前7時に家を出て、帰宅は午後8時。そんな生活が、入学以来ずっと続いていました。
カキケンへの参加を巡って、母・歩美さん(白ゆり長)は「正直、複雑だった」と明かしてくれました。息子の成長を願う思いと、体力面などの不安が交錯していたのです。
「一人の人間として成長してもらいたい」――そう語る歩美さんの目には、蓮人さんの幼少期の記憶が浮かびます。2歳の時、原因不明の高熱で生死の境をさまよい、その後「水腎症」が見つかりました。家族は祈りと治療を重ねながら、この試練を乗り越えてきたのです。
「健康に育ってほしい」
「蓮人が幸せになるように」
来る日も来る日も、切実な祈りを込めて唱題し、信心に支えられながら歩んだ日々でした。
蓮人さんに信心について尋ねると、こう返ってきました。
「困ったら御本尊に向かうんです。祈ってくれる曽祖母や祖母、母の姿を見ていて、信心ってすごいんだなって思ってました」
体験に根差し、理屈を超えた言葉でした。祈る家族の姿、自らの困難、そしてそれを乗り越えた事実……。全てが、蓮人さんの心の中に知らぬ間に刻まれていたのでしょう。
取材を重ねる中、蓮人さんが、ふとつぶやいた言葉が印象的でした。
「カキケンに行けば、視野が広がる気がするんです。いろんな人と話せば、価値観を共有できるかもしれないし。行ってみようかなって」
きっかけは小さくても、その背中を押したのは、家族の変わらぬ祈りと温かなまなざしでした。
「私には、無理です」
静岡県に住む藤井希さん(高校2年)は、未来部の担当者にカキケン参加を打診された時、そう返しました。
小学2年から対人恐怖症と向き合ってきた希さん。周囲が自然とグループをつくる中、自分だけが取り残されるような感覚。話したい気持ちとは裏腹に、冷や汗が流れ、声が出なくなることもしばしば。それでも希さんは学校に通い、高校まで進学しました。
そんな希さんの夢は「看護師になること」。人と向き合う職業に就くためには、苦手な「人との関わり」を乗り越えなければなりません。
一度は参加を断った希さんでしたが、お母さんの一言が心を動かします。
「行かなくて損することはあっても、行って損することはないんじゃない?」
希さんは「行ってみなければ何も始まらない」と決意しました。その瞬間から、“慣らす戦い”が始まったのです。
カキケンの事前研修会へ向かう日、人生で初めて一人で電車に乗りました。3時間前に到着。周辺を歩き心を落ち着かせたそうです。
会場の扉を開けた瞬間、担当のお姉さんが気付き、声をかけてくれました。
「大丈夫だった?」
「よく来たね」
その言葉に、「心がふっと軽くなりました」。
事前研修会では、同じ看護師を目指す仲間と意気投合。会話の中で、希さんの緊張は少しずつほぐれていったそうです。
「学校では誰かに話しかけられることなんてありませんでした。でも、ここは違ったんです」
不安はまだ残っていますが、それ以上に「もう少し頑張ってみたい」という希望が希さんの心の中に芽生えていました。
事前研修会の後、学校で友人を誘い、一緒に昼食をとったという希さん。「ちゃんと過ごせた自分に、少しだけ自信が持てた」と話します。
「だから私は、また一歩、前に進んでみようと思って」
希さんの中で生まれたのは、不安を乗り越えようとする前向きな心。そして何より「変わりたい」と願う自分自身への信頼でした。
愛知県の藤田果歩さん(高校2年)は、カキケンの参加を決めた時、「“不安100%”でした」と語ります。ジャズアンサンブル部のパートリーダーを務める果歩さん。イベントと大会が、それぞれカキケンの3日後と9日後に控えているという中での決断でした。
もともと人見知りの性格。「みんなと仲良くなれるのか」が何よりも不安だったと言います。そんな気持ちを和らげてくれたのが、1本の動画でした。
橋詰未来部長と井出女子未来部長がサングラス姿で登場する、カキケンに向けたメッセージ映像を見て、「堅苦しい場所じゃないんだ」と感じ、少し安心したそうです。
カキケンに向けたオンラインミーティングでも、音楽やYouTubeなど、趣味の話で打ち解ける場面が増えました。「未来部っていっても、やっぱり同級生なんですよね(笑)」。未来部歌「正義の走者」の「情熱燃ゆる 君もまた」という一節にも心を動かされたと言います。
「短い言葉なのに、思いがぎゅっと込められてる。すごい歌詞ですよね」
一方、同じく愛知県の坪内勇羽さん(高校2年)は中学生の時から創価中部サウンド吹奏楽団に所属。朝晩の勤行も欠かさず、自分なりに信心に向き合ってきた一人です。
今回、参加を決めた大きな理由は「創大の寮に泊まれる」という未来部担当者の一言でした。
「寮は本当に楽しみ。たくさんの人と仲良くなれそうです」
趣味はバイク、車、鉄道、音楽、美術、カメラ……。多彩な話題を持つ勇羽さんの周りには、自然と人が集まります。
「やっぱりオンラインだと距離が縮まらない。だからこそ、実際に会って話したい」と、参加者との、事前のオンラインミーティングを経て、素直な思いも語ってくれました。
果歩さんと勇羽さん、2人の言葉から伝わってきたのは、不安が残りつつも、それを上回る、言葉にできないワクワク感でした。
同世代の参加者と触れ合い、少しずつ膨らむ期待。そんな思いを抱く一人一人が、ついに仲間と顔を合わせ、語り合う、カキケンのかけがえのない時間をどう感じるのか。記者の胸も高鳴ります。
8月5日、全国未来部夏季研修会が幕を開けました。会場である創価大学(東京・八王子市)に、次々とバスが到着します。扉が開くたび、はじける笑顔を見せる人、緊張で表情が硬い人、少しうつむく人――全国47都道府県から集まった520人の代表が、それぞれの胸にさまざまな思いを抱えて降り立ちました。
「不安ですが、同世代の仲間を見たらホッとしました」「未来部担当者に“ゴリ押し”されて来ました(笑)」
初日の会場には、照れくささと不安、そして緊張が入り交じった空気が漂っていました。
しかし、寝食を共にし、語り、祈る3日間の中で、少しずつ心の距離が縮まっていくのを、記者は目の当たりにしました。
同世代の体験発表や活動報告に共感し、自分の人生と向き合い始める未来部員の姿も。あるメンバーは、深夜に枕元で交わした言葉を教えてくれました。
「研修会って、堅苦しいだけだと思っていました。でも、なんか……あったかいですね」
時間を重ねるごとに、趣味や部活の話だけでなく、悩みや挑戦、乗り越えたい壁まで、自然と輪になって語り合えるようになったと言います。
最終日、研修の掉尾を飾る全国未来部大会の開会前、多くの参加者が前のめりで感想を語ってくれました。
「同じ信仰を持つ友達と話す中で、祈って目標をかなえる経験を積んでいけるって、すごいと思うんです。だから学会員であることを堂々と語っていきたい」
隣にいたメンバーも続けました。
「創価学会って、すごいです。誇りに思いました。信心を教えてくれた両親や友達に感謝したいです」
引率した未来部担当者も、「無理やり押し出してしまったかと思っていましたが、日に日に変わっていくメンバーの姿に心から感動しました」と語っていました。
仏法では「良き友達」を「善知識」といいます。御本尊を拝し、多くの同志に囲まれ、信心に励めることほどの幸せはありません。池田先生も「だれも自分一人の力で大きくなった人はいない。多くの人に守られ、支えられて生きている。良き環境は良き人間をつくる」と語っています。
3日間で“良き人間のつながり”をつかんだ宝の未来部員たち。それぞれの勝利の未来へ、使命の道を堂々と走り始めました。
5月、山形の蓮人さんは「行っても行かなくても」とつぶやき、静岡の希さんは「無理です」と顔を伏せていました。7月、愛知の果歩さんは「不安100%」と笑いながらも、挑戦の心が燃えていました。勇羽さんは「寮で友達をつくりたい」と胸を高鳴らせていました。
そして迎えた8月。蓮人さんは初めて出会った仲間と笑い合い、「行動する勇気を得られた」と語りました。積極的に声をかける空気に触れ、挑戦の楽しさを知り、「今を大切にしよう」と決意を新たにしました。
希さんは、これまで「一人のほうが楽」と思ってきましたが、ディスカッションや折々の会話を通じて「自分から声をかければ何十倍も心が軽くなる」と実感。目を合わせ、コミュニケーションを重ね、人とつながる温かさを知りました。
果歩さんは体調不良で無念の欠席。それでも「行きたかった」という言葉には、準備の日々と仲間の輪に入れなかった悔しさがにじんでいました。しかし先日開催されたアンサンブルのイベントに出場。ソロパートもやり切れたそう。「この悔しさは、きっと大きなチャンスにつながる」と、前を向いています。
勇羽さんは「とにかく全員と話そう」と、3日間を駆け抜けました。同世代と寝食を共にし、「この雰囲気なら」と、創大への興味が増したそうです。
押し出された一歩が、いつしか自ら踏み出す一歩に変わる――その瞬間に立ち会えたことが何よりの喜びです。来年、この物語を彼らが“応援する側”としてつなぎ、新しい夏のページを紡いでくれるはずです。
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