地方議会で深刻化する「議員のなり手不足」問題。課題の背景と克服のカギを探る。(「第三文明」4月号から)
地方議会で深刻化する「議員のなり手不足」問題。課題の背景と克服のカギを探る。(「第三文明」4月号から)
地方議員と議会の歴史的変遷をたどる
地方議員と議会の歴史的変遷をたどる
議会制の淵源は、中世から近世にかけて西欧都市で結成されたギルド(商工業者の職業別組合)にさかのぼります。各ギルドでは自分たちの権利を守るべく、代表者を参事会(議会)へ送りました。これを一部の人たちの代表という意味で「部分代表」と呼びます。
一方で、代表者を送れない組織もあり、当然、そこにいる人々の権利も守らねばなりません。そこで部分代表の人々は、参事会においては自然と都市全体の利益を考えて行動するようになります。これを「全体代表」と呼び、現在に至る議員の基本的な性質が確立されました。
その後、議会の仕組みは、フランス革命後のアメリカへ渡り、「二元代表制」へ発展していきます。同制度は、有権者である市民が、執行機関である首長と議決機関である市議会議員を直接選挙で選ぶ仕組みです。アメリカ建国の父たちは、「一人に権力を集中させると、多様な民意に耳を傾けないリスクが高まり、誤った判断をした際の損失も大きくなる」と考え、首長と議員を相互チェックさせる仕組みを考えたのです。
その後、二元代表制は日本の地方議会でも採用されました。明治期から戦前まで都道府県の知事は官選で、人事権は内務省が握り、主に内務官僚が派遣されたのです。このため、都道府県も国策を遂行する「出先機関」の位置付けでした。そこで地域の人々は、地元の声をよそ者の知事に訴えるべく、地方議員に地域の御用聞きと知事の監視役を担わせたのです。
なお、議員を「先生」と呼ぶ慣習は、かつては議員のなり手が地主等の地域の名士であり、彼らの多くが無報酬であったため、敬意を込めてそう呼んだのです。
議会制の淵源は、中世から近世にかけて西欧都市で結成されたギルド(商工業者の職業別組合)にさかのぼります。各ギルドでは自分たちの権利を守るべく、代表者を参事会(議会)へ送りました。これを一部の人たちの代表という意味で「部分代表」と呼びます。
一方で、代表者を送れない組織もあり、当然、そこにいる人々の権利も守らねばなりません。そこで部分代表の人々は、参事会においては自然と都市全体の利益を考えて行動するようになります。これを「全体代表」と呼び、現在に至る議員の基本的な性質が確立されました。
その後、議会の仕組みは、フランス革命後のアメリカへ渡り、「二元代表制」へ発展していきます。同制度は、有権者である市民が、執行機関である首長と議決機関である市議会議員を直接選挙で選ぶ仕組みです。アメリカ建国の父たちは、「一人に権力を集中させると、多様な民意に耳を傾けないリスクが高まり、誤った判断をした際の損失も大きくなる」と考え、首長と議員を相互チェックさせる仕組みを考えたのです。
その後、二元代表制は日本の地方議会でも採用されました。明治期から戦前まで都道府県の知事は官選で、人事権は内務省が握り、主に内務官僚が派遣されたのです。このため、都道府県も国策を遂行する「出先機関」の位置付けでした。そこで地域の人々は、地元の声をよそ者の知事に訴えるべく、地方議員に地域の御用聞きと知事の監視役を担わせたのです。
なお、議員を「先生」と呼ぶ慣習は、かつては議員のなり手が地主等の地域の名士であり、彼らの多くが無報酬であったため、敬意を込めてそう呼んだのです。
なり手不足の不利益は有権者に
なり手不足の不利益は有権者に
こうして歴史を刻んできた日本の地方議員制度ですが、いま「議員のなり手不足」という課題に直面しています。総務省によれば、前回の統一地方選挙(2019年)では、道府県会および町村会議員の無投票当選者の割合がそれぞれ26・9%と23・3%で過去最多となり、8町村議選挙で定数割れが起きています。
背景には、地方議員の報酬が少なく、暮らしに不安を感じざるを得ない現実があります。マスメディアでは、「議員がいかに優遇されているか」ばかりが報じられがちですが、それは国会議員や一部の都道府県議・政令市議の話です。
小規模市町村は財政も厳しく、月額報酬が20万円を下回る自治体も珍しくありません。税金等の控除を考えれば、手取り額は推して知るべしといったところでしょう。
加えて、財政事情や世論の批判などから、すでに議員年金等も廃止されています。落選して無職になるリスクと向き合いながら、町の発展と市民の暮らしの向上に尽力してきたのに、老後の保障は国民年金のみという現状があるのです。
こうして歴史を刻んできた日本の地方議員制度ですが、いま「議員のなり手不足」という課題に直面しています。総務省によれば、前回の統一地方選挙(2019年)では、道府県会および町村会議員の無投票当選者の割合がそれぞれ26・9%と23・3%で過去最多となり、8町村議選挙で定数割れが起きています。
背景には、地方議員の報酬が少なく、暮らしに不安を感じざるを得ない現実があります。マスメディアでは、「議員がいかに優遇されているか」ばかりが報じられがちですが、それは国会議員や一部の都道府県議・政令市議の話です。
小規模市町村は財政も厳しく、月額報酬が20万円を下回る自治体も珍しくありません。税金等の控除を考えれば、手取り額は推して知るべしといったところでしょう。
加えて、財政事情や世論の批判などから、すでに議員年金等も廃止されています。落選して無職になるリスクと向き合いながら、町の発展と市民の暮らしの向上に尽力してきたのに、老後の保障は国民年金のみという現状があるのです。
実際、1月に共同通信が全国の地方議会議長を対象に行ったアンケート調査でも、63%が「議員のなり手不足」を実感するとともに、有効な対策(複数回答)として「議員報酬引き上げ」(77%)や「議員の厚生年金制度創設」(55%)を挙げています。いずれにしても、このままでは地方議員のなり手不足が常態化し、その不利益は有権者に跳ね返ってくるでしょう。
地方議員というと、「議員の数が多すぎる」との印象論や、「御用聞きに走り回っているだけではないか」といった揶揄がなされがちです。けれど、地方議員がいればこそ、政治的マイノリティー(少数派)の人々が見捨てられずに済んでいます。街灯・道路標識等の設置・修繕や、生活福祉の各種相談・申請サポートは、町全体の問題ではなくとも、市民を守り支える大切な仕事です。
さらに今後の日本、特に少子高齢・人口減少の著しい地方では、人員・予算削減を主目的とする行政の「デジタル化」が加速度的に進んでいきます。あらゆる行政手続きが、パソコンやスマートフォン等でのオンラインに切り替わっていく方向にあるのです。
実際、1月に共同通信が全国の地方議会議長を対象に行ったアンケート調査でも、63%が「議員のなり手不足」を実感するとともに、有効な対策(複数回答)として「議員報酬引き上げ」(77%)や「議員の厚生年金制度創設」(55%)を挙げています。いずれにしても、このままでは地方議員のなり手不足が常態化し、その不利益は有権者に跳ね返ってくるでしょう。
地方議員というと、「議員の数が多すぎる」との印象論や、「御用聞きに走り回っているだけではないか」といった揶揄がなされがちです。けれど、地方議員がいればこそ、政治的マイノリティー(少数派)の人々が見捨てられずに済んでいます。街灯・道路標識等の設置・修繕や、生活福祉の各種相談・申請サポートは、町全体の問題ではなくとも、市民を守り支える大切な仕事です。
さらに今後の日本、特に少子高齢・人口減少の著しい地方では、人員・予算削減を主目的とする行政の「デジタル化」が加速度的に進んでいきます。あらゆる行政手続きが、パソコンやスマートフォン等でのオンラインに切り替わっていく方向にあるのです。
しかし、情報機器の操作に不得手な高齢者や、日常的に情報機器に触れる機会の少ない第1次産業(農林水産業)の人々など、誰もがデジタル化に対応できるわけではありません。情報機器の得意・不得意で格差や不利益が生じることは、避ける必要があります。その意味では、多様な立場を代弁し、サポートできる地方議員の存在が、ますます重要になると思います。
それでは、地方議員のなり手不足をいかに解消すべきでしょうか。結局のところ、その根本要因は、地方議員という仕事が「職業」として法的に位置付けられず、保護されていない点に尽きます。明治期以来の「先生」のイメージ、すなわち「地方議員は、社会の名士が滅私奉公で務めるべきもの」との印象を引きずっているのです。
地方議員の仕事を魅力あるものとするためにも、まずは一つ一つの課題を着実に解決すべきと考えます。具体的には、現代の感覚に見合った議員報酬の引き上げや厚生年金制度の創設の他、昨年、政府の「地方制度調査会」が取りまとめた「会社員への立候補休暇制度」の創設などを検討していくべきでしょう。
しかし、情報機器の操作に不得手な高齢者や、日常的に情報機器に触れる機会の少ない第1次産業(農林水産業)の人々など、誰もがデジタル化に対応できるわけではありません。情報機器の得意・不得意で格差や不利益が生じることは、避ける必要があります。その意味では、多様な立場を代弁し、サポートできる地方議員の存在が、ますます重要になると思います。
それでは、地方議員のなり手不足をいかに解消すべきでしょうか。結局のところ、その根本要因は、地方議員という仕事が「職業」として法的に位置付けられず、保護されていない点に尽きます。明治期以来の「先生」のイメージ、すなわち「地方議員は、社会の名士が滅私奉公で務めるべきもの」との印象を引きずっているのです。
地方議員の仕事を魅力あるものとするためにも、まずは一つ一つの課題を着実に解決すべきと考えます。具体的には、現代の感覚に見合った議員報酬の引き上げや厚生年金制度の創設の他、昨年、政府の「地方制度調査会」が取りまとめた「会社員への立候補休暇制度」の創設などを検討していくべきでしょう。
デジタルによる社会的包摂が重要
デジタルによる社会的包摂が重要
前述したようにデジタル化の波が地方に押し寄せる中で、地方議員には「デジタル・インクルージョン(包摂)」の視点が求められます。デジタル・インクルージョンとは、デジタル化から疎外された人々や社会的に弱い立場の人々を守る姿勢・能力のことを言います。
この点、マイノリティーの声に熱心に耳を傾ける公明党は、デジタル・インクルージョンとの親和性が高いと感じます。つまり、党の理念や政策をデジタル時代にアップデートしやすいのです。
視覚障害者が行政から受け取る通知書に「音声コード」を付ける取り組みなどは、その好例でしょう。それまで年金振込通知書には付けられていましたが、「その他の通知書にも、中身を聞き取ることができる音声コードを」との当事者の声を受け、公明党が推進したと聞きました。目立たない取り組みですが、日本の将来、特に「誰一人置き去りにしない社会」の実現に向けて重要な貢献といえます。
前述したようにデジタル化の波が地方に押し寄せる中で、地方議員には「デジタル・インクルージョン(包摂)」の視点が求められます。デジタル・インクルージョンとは、デジタル化から疎外された人々や社会的に弱い立場の人々を守る姿勢・能力のことを言います。
この点、マイノリティーの声に熱心に耳を傾ける公明党は、デジタル・インクルージョンとの親和性が高いと感じます。つまり、党の理念や政策をデジタル時代にアップデートしやすいのです。
視覚障害者が行政から受け取る通知書に「音声コード」を付ける取り組みなどは、その好例でしょう。それまで年金振込通知書には付けられていましたが、「その他の通知書にも、中身を聞き取ることができる音声コードを」との当事者の声を受け、公明党が推進したと聞きました。目立たない取り組みですが、日本の将来、特に「誰一人置き去りにしない社会」の実現に向けて重要な貢献といえます。
こうしたことができるのも、「縦の連携」(国会議員と地方議員)と「横の連携」(地方議員同士)が織り成す、重層的なネットワークのたまものでしょう。公明党にはぜひその強みを生かして、地方議会のデジタル化推進にも力を発揮してほしいと思います。
具体的には、AI(人工知能)を用いた「地方議会統合データベース(DB)」を構築してはどうでしょうか。
一般には知られないことですが、自治体・議会同士の情報共有の壁は大きく、そのために多額の費用と時間をかけて、議員視察が必要になっています。統合DBの構築によって全国の地方議員が「教育無償化の模範的事例」などと検索し、一般非公開の行政情報にアクセスできるようになれば、地方政治はより深化したものとなるはずです。
今春、統一地方選挙が行われますが、4年前とは「コロナ禍」という大きな違いがあります。そのダメージは地方の至るところに出ていて、かじ取りを間違えれば回復に深刻な遅れが生じかねません。だからこそ、私たちは地方議員のあり方に関心を持ち、「誰が信頼に値するか」を見極める必要があるのです。
こうしたことができるのも、「縦の連携」(国会議員と地方議員)と「横の連携」(地方議員同士)が織り成す、重層的なネットワークのたまものでしょう。公明党にはぜひその強みを生かして、地方議会のデジタル化推進にも力を発揮してほしいと思います。
具体的には、AI(人工知能)を用いた「地方議会統合データベース(DB)」を構築してはどうでしょうか。
一般には知られないことですが、自治体・議会同士の情報共有の壁は大きく、そのために多額の費用と時間をかけて、議員視察が必要になっています。統合DBの構築によって全国の地方議員が「教育無償化の模範的事例」などと検索し、一般非公開の行政情報にアクセスできるようになれば、地方政治はより深化したものとなるはずです。
今春、統一地方選挙が行われますが、4年前とは「コロナ禍」という大きな違いがあります。そのダメージは地方の至るところに出ていて、かじ取りを間違えれば回復に深刻な遅れが生じかねません。だからこそ、私たちは地方議員のあり方に関心を持ち、「誰が信頼に値するか」を見極める必要があるのです。