企画・連載

連載〈2030年へ 人類の宿命転換への挑戦〉第1回 「人材を育む“教育的母体”」㊤ 2025年1月1日

 2025年「世界青年学会 飛翔の年」が幕を開けた。
  
 本年は、初代会長・牧口常三郎先生のもと、創価教育学会が創立されて95周年、第2代会長・戸田城聖先生の出獄80年、池田大作先生が第3代会長に就任し、世界広布へ初の海外指導に赴いてから65年、SGI(創価学会インタナショナル)発足50周年など、幾重にも重要な節を刻む。
  
 かつて、池田先生は、学会創立100周年の2030年に向けて「人類の『宿命転換』を、断固として成し遂げていくべき勝負の時」と示した。
 今こそ私たちは、先生の思想と行動から、人類の宿命転換を成し遂げる方途を学び、実践したい。

 
■弘教と公共性

 50年前(1975年)の1月26日、グアムの地に、51カ国・地域の代表が集い合った。
 第1回「世界平和会議」――SGI発足の場となった同会議において、池田先生が、スピーチの最後に強調したのは、学会員が信仰者として果たすべき「二つの使命」だった。
  
 その第一は、一人の幸福と人間革命・宿命転換を願って行動する「弘教」である。
 先生は「自分自身が花を咲かせようという気持ちでなくして、全世界に妙法という平和の種を蒔いて、その尊い一生を終わってください。私もそうします」と語り、会員一人一人が「布教活動の主体者」として、仏縁を広げゆく重要性を訴えた。
  
 第二は、万人の幸福と世界平和を願って行動する「公共性」(注1)である。
 先生は「どうか勇気ある大聖人の弟子として、また、慈悲ある大聖人の弟子として、また、正義に燃えた情熱の大聖人の弟子として、それぞれの国のために、尊き人間のために、民衆のために、この一生を晴れ晴れと送ってください」と語り、「良き市民」として、地域・社会のために貢献する生き方を奨励した。

 
 当時を振り返り、原田会長は語る。
 「池田先生は当時、世界の現状と行く末について、“極めて憂慮すべき状況”と実感され、世界を股にかけるように、猛然と人間外交を開始されました。
 冷戦のさなか、74年から75年1月のSGI発足までの一年間に、対立深まる中国とソ連、そしてアメリカを相次ぎ訪問され、各国指導者との対話を通し、平和の道を志向されています。
  
 一方、国内にあっても、74年の学会のテーマが『社会の年』となり、“仏法をどう社会に開くか”を意識しながら、学会員一人一人が社会貢献の行動を起こす流れがつくられていきます。
 その背景にあった先生のご心情が示されたのが、SGI発足の場でのスピーチです。
 先生は“世界は、軍事、政治、経済という力の論理、利害の論理が優先されることによって平和が阻害され、常に緊張状態に置かれている。こうした状況を打破し、平和への千里の道を開いていくことこそ宗教の本質的な役割である”と強調されました。
 学会はここから、社会へ世界へと『貢献の志』を大きく開いていったのです」
  
 創価学会が「世界宗教」へと飛翔しゆく起点ともなったSGI発足の場において、先生が論及した「弘教」と「公共性」という二つの基軸。
 会員一人一人が自らの活動のフィールドにおいて、この両軸をバランスよく保ち続けてきたことが、創価学会の世界的発展の要因である。
 

■「人間」をつくる

 では、私たちが担ってきた「公共性」――社会貢献活動とは、具体的に何を指すのだろうか。
  
 寺崎広嗣SGI平和運動総局長は、こう語る。
 「かつて、池田先生と少人数で懇談させていただく機会がありました。
 将来の学会のビジョン、社会的使命について、先生は、戸田先生の言葉を通しながら、『大聖人の仏法を学んで、人間革命した一人一人が、社会のあらゆる分野に進出して活躍する。創価学会は、そうした“教育的母体”になっていく』と明快に教えてくださいました」
  
 小説『人間革命』第10巻「展望」の章には、56年の「大阪の戦い」を勝利に導いた山本伸一に、戸田先生が社会建設の活動の展望について語る場面が描かれている。
  
 「広宣流布が進んでいけば、社会のあらゆる分野に人材が育っていく。
 政治の分野にも、経済の分野にも、学術・芸術・教育など、どんな分野にも、社会の繁栄、人類の平和のために、献身的に活躍している学会員がいるようになるだろう。(中略)要するに、創価学会は、人類の平和と文化を担う、中核的な存在としての使命を課せられることになると、私は考えている。
 伸ちゃん、創価学会は、そのための人材を育て上げていく、壮大な教育的母体ということになっていくんじゃないか。要は、『人間』をつくることだ」

 
 学会は教育者の団体として出発し、信仰を通して、人間を陶冶し続けてきた。
 『創価教育学体系』(注2)に「社会各方面の行詰りの根源が悉く人材の欠乏に帰し」(『牧口常三郎全集』第6巻)と記されている通り、牧口先生の焦点は一貫して「人材の育成」に当てられ、戸田先生は出獄後、本格的に「青年」の育成に着手している。
  
 有為の人材を育て、各界へ輩出する流れは、SGI発足の75年を起点として、池田先生の卓越したリーダーシップによって、一段と力強く世界へと広がっていった。
  
 では、創価学会が育んできた「人材」とは、どのような人物像であろうか――。
  
 それは、いかに混沌とした希望なき時代にあっても、「一人の人間における偉大な人間革命は、やがて一国の宿命の転換をも成し遂げ、さらに全人類の宿命の転換をも可能にする」との人間革命の思想を自他共の「希望」とし、「信念」として、自身の人生・環境において、貢献的実践を貫く「世界市民」である。
  
 この「世界市民」が、創価学会が地球的規模で進める「平和・文化・教育」運動の担い手となり、地域・社会で貢献活動を続けてきた。
 それは、宗教・宗派の壁を超え、広く市民社会の連帯を促す運動へと昇華している。

 
■意識啓発を促す

 その歩みを振り返る上で、重要な事績の一つとして、原田会長は「82年に学会がニューヨークの国連本部で開催した『核兵器――現代世界の脅威』展(注3、国連広報局、広島・長崎市と協力)」を挙げた。
  
 「国連本部での展示の開催は当初、難しいと考えられていました。しかし、ここに至るまで、先生は、75年1月には青年部の核廃絶1000万署名を当時の国連事務総長に手渡してくださり、78年5月、82年6月には、国連軍縮特別総会に寄せて、提言を発表してくださっています。こうした平和行動の積み重ねが、信頼を築き、国連本部での展示の実現につながったのです。
  
 社会貢献の一つの表れである『平和活動』において、どう行動すべきかを、先生ご自身が誰よりも思索し、主導し、結実してくださいました。この展示の翌83年から、先生の『SGIの日』記念提言が開始された歴史を、私たち弟子は深く胸にとどめなければなりません」
  
 展示や署名活動は、平和行動のツール(手段、方法)であり、その目的は、意識啓発を促すことである。その「教育的活動」の中で育まれた「世界市民」が自身の信念を叫び、一歩を踏み出すことで、呼応する人が現れ、平和運動が広がっていく。
  
 ゆえに先生は、全世界に「教育的活動」の価値を訴えながら、自らが先頭に立って、その実践を続けてきたのである。
(㊦は後日付に掲載)

 
 注1=公共性 『創価学会教学要綱』第四章には、創価学会の社会的使命を明文化した「創価学会社会憲章」の意義を踏まえ、「立正安国の理念に立つ創価学会は、公共性を最大に重んじ、万人の幸福の実現と世界の平和・安定に資することを第一義とする」(152ページ)と明記されている。
  
 注2=『創価教育学体系』 1930年11月18日、牧口先生は書きためてきた自身の教育理論を戸田先生の協力を得てまとめ、『創価教育学体系』第1巻を発刊(30年から34年にかけて刊行。全4巻)。同書の奥付に記された発行日「11月18日」が、創価学会の創立記念日である。
  
 注3=「核兵器――現代世界の脅威」展 1980年代に入り、軍拡競争が激化する中にあって、82年に国連本部で開催して以降、88年まで24カ国39都市を巡回。冷戦期の北京、モスクワ、ウィーン、パリ、ベルリンでも開かれた。

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