創価教育

【電子版先行】〈大学は何ができるか 創大×八王子〉 STEAM教育って“蒸気”のこと? 2026年8月15日

八王子を“熱く”する丸田ゼミの挑戦

 ここは「抗がん剤」の開発を進める研究室。一方、東京・八王子市産の酒米から出た「米粉」で、パンやスイーツ、さらにはスプーンやクリップ、ゴミ袋までつくってしまう――創価大学理工学部の丸田晋策教授のゼミが、地域を舞台に10年前から取り組むプロジェクトです。市から「STEAM教育のモデル事業として連携しませんか」と声がかかったのは、昨年のこと。「お恥ずかしながら」と前置きしつつ、丸田教授は振り返ります。「“スチーム”と聞いて、“蒸気”を思い浮かべちゃったんです(笑)。八王子を『学びで“熱く”する教育』のことかなって」。これが、あながち間違いではなかったのかもしれません。(記事=大宮将之)

■米粉が「食べられるスプーン」に?

 STEAMとは五つの学問分野を表す英単語の頭文字を組み合わせたもの。①Science(科学)②Technology(技術)③Engineering(工学・ものづくり)④Arts(芸術・リベラルアーツ)⑤Mathematics(数学)――です。
  
 そしてSTEAM教育とは、この5分野を結び付け、社会課題を創造的に解決する学びのこと。丸田教授が学生教育で重視してきたのも「創造力」の育成でした。「価値を創造する力は、人間だけが持てるもの。AI(人工知能)やロボット技術が著しく進化する時代だからこそ、『創造力』が大切なんです」
  
 その力は、研究室に閉じこもっているだけでは育めません。現実の生活に足場を置き、課題を見つけ、解決しながら培っていくものです。八王子市は21の大学・短大・高専が集まる「学園都市」。その強みを生かした、学生の挑戦を後押しする組織「大学コンソーシアム八王子」があります。
  
 2016年、丸田教授が「そこで学生のアイデアを発表しよう」と提案したことから、実践がスタート。その一つが、吟醸酒づくりの副産物である米粉の活用です。学生たちは地域の企業とつながり、小麦アレルギーの子どもも食べられる「グルテンフリーのパン」や米粉のチョコブラウニーを製品化しました。

 さらに、クッキーやケーキを作ろうとする過程で、「焼くと硬くなってしまう」という“失敗”を重ねます。「それなら硬さを生かそう」と発想を転換。「食べられるスプーン」を生み出しました。米粉を生かすことは食品ロスの削減に、食べられるスプーンはプラスチックごみの削減にもつながっていったのです。
  
 振り返れば、この10年の歩みこそ、STEAM教育そのものでした。

■創大生が「市立中学校の先生役」に?

 丸田ゼミの実践は昨年7月、中学校の教室へ広がりました。
  
 八王子市のSTEAM教育・研究推進校に選ばれた市立中学校で、SDGs(持続可能な開発目標)をテーマに特別講義が行われたのです。
  
 教壇に立ったのは丸田教授――ではなく、ゼミの学生たち。「食べられるスプーン」が生まれるまでを創大生が紹介し、給食では、生徒が実際にそのスプーンでカレーライスを食べ、最後はスプーンそのものも試食しました。感想は「リアルに使いやすい!」「甘いクッキーの味がする!」。

 学びは、そこで終わりません。中学1年生は、丸田ゼミが開発した米粉製のクリップに貼るシールをデザイン。代表2人の作品が、実際の製品になりました。

 一方、2年生は学校を飛び出し、自分たちが住む街へ。地域の人と協力して、街の魅力を伝える「謎解き街巡り」をつくり上げました。シールが貼られたクリップは、その景品に。学年を超えたアイデアが結び付き、一つの地域イベントとして形になったのです。
  
 「実際に作ってみて、自信もついた。“新しいものを生み出そう”という気持ちが育ってきたのではないでしょうか」。校長は、生徒たちの変化をそう語ります。
  
 本年7月。丸田ゼミとの連携は、さらに一歩先へ。再び創大生が“中学校の先生役”を務める特別講義が行われました。
  
 冒頭、学生の一人が問いかけます。「高校生になったら、アルバイトしたいと思っている人?」
  
 ほとんどの生徒が手を挙げました。間髪を入れず、学生がさらに一言。「もしかしたら、その仕事、ロボットに奪われてしまうかもしれません」

■中学生が「企業の“未来”責任者」に?

 「えっ?」。教室がざわめきます。そこから話は、AIやロボットが身近になる時代の、人間に求められる「創造力」へ。その力を育み、実社会で試すチャンスとして「八王子CFO」の取り組みが紹介されました。
  
 CFOとは、「Chief Future Officer(最高未来責任者)」のこと。企業の未来のあり方を、その未来を生きる若い世代と共に考えていく革新的な試みです。国内ではすでに先行例がありますが、八王子では今回が初めてです。
  
 丸田ゼミが目指すのは地元の協力企業に中学生が「八王子CFO」として“採用”され、課題解決の主体者となること。現在、市内の2事業者との連携が進んでいます。

 丸田ゼミ自身、大学コンソーシアム八王子の学生発表会で、「市長へ直接提案」セッションの最優秀賞に米粉活用のアイデアが2年連続で選ばれるなど、学生の発想を地域の課題解決につなげてきました。その経験を、中学生へと手渡します。
  
 この日の授業でも、企業が直面するような課題を題材にグループワークを実施。「“株式会社オニオン”を立ち上げて、八王子産の玉ねぎを有効活用する」「米粉をバイオマス発電(生物由来の資源を燃料にする発電)に使います」。生徒から次々と飛び出すアイデアに、机を囲む創大生も、「すごい!」「いいね!」と声を弾ませました。

 大学を起点に「人」と「知」をつなげていく。「大学と地域企業が連携し、学園都市・八王子がSTEAM教育のモデル都市へ発展することが期待できます」(丸田教授)
  
 大学生も、子どもも、地域の大人も、企業も、新しい価値を創造するパートナーに――やはり、「八王子を学びで“熱く”する教育」という最初の“勘違い”も、間違いではなかったようです。

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