エンターテインメント
〈インタビュー〉 映画「シンペイ 歌こそすべて」 中村橋之助さん×緒形直人さん 2025年1月9日
「シャボン玉」「東京音頭」など、日本人になじみのある童謡や流行歌などを数多く手がけた明治生まれの作曲家・中山晋平の生涯を描く映画「シンペイ 歌こそすべて」が、1月10日(金)から全国公開される。過日、晋平を演じた主演の中村橋之助さんと、晋平の“芸術の師”となった劇作家・島村抱月役の緒形直人さんに、本作の見どころや役柄の魅力について聞いた。
東京・明治座の劇場裏にある小さな応接室で待っていると、まず現れたのは緒形直人さん。“朝ドラ”の撮影の合間を縫い、自ら運転する車で駆け付けてくれた。
しばらくすると、中村橋之助さんも姿を見せる。明治座で行われていた歌舞伎に出演中で、昼と夜の公演のわずかな空き時間で取材を受けてもらった。
二人とも、爽やかにあいさつされ、取材はスタートした。
――オファーを受けた時の心境は?
中村 歌舞伎以外では、これまでミュージカルなどの出演はありましたが、映画は初出演で、しかも初主演。でも、まず“やってみたい”という気持ちが湧いてきました。それに、中山晋平の18歳から65歳までの人生を一人で演じられるという、本当に貴重で、役者冥利に尽きるお話だったので、すごく前向きな気持ちでお受けできました。
緒形 演じる島村抱月は、どういう人物か詳しく知りませんでしたが、脚本を読んでみると、近代劇の普及に努めた重要な人物だと分かって、「それだったら、ぜひ」と。ただ、抱月も私も「新劇出身」ということで安心されたのか、頂けた資料が少なかった(笑)。かなり自分で調べましたね。
――晋平は、子ども心をつかむ旋律や斬新な音入れなど、前衛的な曲作りで約2000もの曲を残しました。“近代流行歌の父”と称される彼の印象は?
中村 当時のはやりや風俗のエッセンスをくみ取りつつも、自分が“これだ!”と思わないと、作品を世に出さない方だなと。ですので、演じる上で大事にしたのは、自分がいいと思ったものに自信を持っているという印象です。
自分のアンテナを信じ、曲作りに向かう――その変わらない信念があったからこそ、人気の振れ幅があっても結果的に大成されたと感じます。それが、お客さまにも届いたらいいなと。
なかむら・はしのすけ 1995年12月26日生まれ、東京都出身。屋号・成駒屋。八代目中村芝翫の長男。2000年、中村国生を名乗り、初舞台。16年に四代目中村橋之助を襲名する。歌舞伎以外では、舞台「オイディプスREXXX」(18年)、ドラマ「ノーサイド・ゲーム」(19年)などに出演。
――劇中の抱月は、熱い思いのこもったメッセージを多く発していますね。
緒形 彼は、ヨーロッパに留学し、オペラや芝居などを数え切れないぐらい見たようなんです。彼の中では、これらの作品を早く日本に持っていき、大衆をうならせたいという思いが強かったはず。抱月は、あの時代の日本において、世界でも高いところを見ていた人。だから、先見性やカリスマ性、そして引っ張っていく勢いがあった方がいいと意識して演じました。
――抱月と晋平との関係は、ただの家長と書生ではなく、互いを高め合い、思いやる、美しい師弟だと感じました。
中村 歌舞伎の場合、「この演目はこの家」という得意分野があるので、その家の先輩方に習いに行くことも。そういった学びの場は、僕の人生でかけがえのない経験になっています。抱月から教えを請う晋平は、まさに自分の姿と重なりますね。
緒形 抱月としても、晋平の鼻歌を聞いたその瞬間から、彼の才能に心を奪われるものがあった。かわいくてしょうがないというくらい、大きな情が芽生えていた気がします。
――公開を楽しみに待っている方にメッセージを。
緒形 晋平の曲は知っていても、彼自身のことを分からない人も多いと思うので、この映画で楽曲誕生の経緯を知り、新たな発見をしてもらえたらうれしい。昔を懐かしんだり、自分の親や先祖が生きた時代のことを考えたりと、たくさんのことを感じられるのではと思います。
中村 一人の偉大な作曲家の人生を、この(上映)時間で追うことができるし、シーン一つ一つが人生のターニングポイントとして描かれています。とても見やすく、共感できるところの多い作品だと思いますので、ぜひ自分と重ね合わせて見ていただければ。
おがた・なおと 1967年9月22日生まれ、神奈川県出身。デビュー映画「優駿 ORACION」(88年)で、日本アカデミー賞新人俳優賞など数々の賞に輝く。ドラマにも多数出演し、92年のNHK大河ドラマ「信長 KING OF ZIPANGU」で主演を務める。現在放送中のNHK連続テレビ小説「おむすび」に出演。
【記事】木村英治 【写真】石川大樹
信州(現在の長野県)から上京した中山晋平(中村=写真㊨)は、1908年に東京音楽学校に入学する。ピアノの習得が卒業レベルに至らず、落第の危機に陥るが、幸田先生(酒井美紀)にその才を見いだされ、どうにか卒業する。
書生として仕える演出家・島村抱月(緒形=同㊧)の「芸術は大衆の支持を離れてはならない」との教えのもと、作曲を手がけ、14年に「カチューシャの唄」が誕生する。
企画・プロデュース:新田博邦 監督:神山征二郎 脚本:加藤正人、神山征二郎 音楽:久米大作 共演者:志田未来、渡辺大、三浦貴大ほか
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