ユース特集

〈電子版連載〉 わたしの「そろそろ」はまだまだ。 #アラサー #そろまだ。 #転職 #恋愛 2025年3月29日

今回のテーマは「転職」×「恋愛」
変えることで見えた“変わらない自分”

 アラサー(30歳前後)世代が向き合う「クオーターライフクライシス」を特集する連載「わたしの『そろそろ』はまだまだ。」――第3回は、「転職」「恋愛」をテーマに、自分らしい生き方を模索する女性を紹介します。

焦りと違和感

 りんさん(仮名・29歳)は、幼い頃から看護師になるのが夢だった。看護師一筋で、人のために働いてきた創価学会員の母。その母の人生を追うように、大学の看護学部に入学し、卒業後は、大学病院への配属が決まった。
 与えられた場所で“必要とされなきゃ”と必死になる日々。現場では、正確さとスピード、突発的な事案への対応力が求められた。
 「じっくり考えたい派の私にとっては、つらい毎日でした。怒られるばかりで、理想の自分は描けているのに、現実は全く追いつかない。この仕事は自分に合っているのかなと感じ始めました」
 迷いを抱えながらも時の流れは止まることなく、働き始めて3年がたった頃、「危機」は突然訪れた。「新型コロナウイルス」だ。勤務する病院でも感染者を受け入れることになり、目まぐるしい日々を送った。
 「“社会的に必要とされている”という実感が、自分を奮い立たせてくれました。仕事に対する迷いも一時的に忘れていました」

陸で泳ぐ魚⁉

 2021年5月、国が3度目の緊急事態宣言を発出した少し後、りんさんは仕事で大きなミスをしてしまう。
 「“この先輩は忙しいし、あの先輩は怖いし……”とためらっていたら、業務上の報告を忘れてしまって。自分の弱さがミスにつながったと思います」
 帰宅後、気付いた時にはすでに遅く、先輩からの着信が。電話を切った後、いつ寝たのか、何を食べたのかも記憶がない。その後、3連休を挟んだが、ずっとベッドにこもりっぱなし。何もしたくなかった。
 連休の最終日。誰かに話を聞いてほしくなったが、“会うこと”は制限されていた。一人で近所の河川敷を歩きながら、同僚に電話をした。
 「『誰からも必要とされていない』と自分を卑下する私に、彼女は『十分スペック高いじゃん。自分を否定したらもったいないよ』と励ましてくれました」
 自分の存在を尊重し認めてくれる同僚と話す中で、次第に頭の中が整理されていった。
 「一体、自分は何にこだわっていたんだろうと考えた時に、幼い頃の夢が、いつの間にか自分への“呪縛”に変わっていたのかもしれないと思ったんです。魚は陸では泳げないのに、必死で陸を泳ごうとしていたことに気付きました」
 しかし、自分で自分を諦めたくなかった。「諦めない祈り」――幼い頃から母に言われていた池田先生の言葉が頭に浮かんだ。御本尊の前に座り、苦しい胸の内を聞いてもらうように祈った。
 「必要とされる人になりたいという思いは変わらない。それは、今の環境でしかできないのか。いや、環境を変えるからこそ、できることもあるのではないか」
 自分の中の“変わらないもの”が明確になった。そして、“変える”勇気が湧いた。
 「『置かれた場所で咲く』『5年、10年はその場所で』という価値観もあります。それも大事。だけど、自分を傷つけてまで我慢するのは違うかな。自分を大切にしてこそ、咲かせることもできると思うから。そして“咲く場所”は、自分で決めたい」

私の“咲く場所”

 2022年、約4年間働いた職場を退職した。27歳で保健師を目指し、大学院へ通い始めた。
 保健師とは、地域住民が健康を保って生活できるよう、保健指導や健康相談などを通じてサポートする仕事だ。いわば、病気やけがを「予防」する専門家ともいえる。
 「学生時代から、保健師もいいなと思っていたんですが、その時は諦めたんです。でも、人生で“壁にぶつかった”ことで、もう一度、挑戦したいと思えたんです」
 無事、国家試験に合格し、今春から海沿いの町に移住して、保健師として働く。なぜその土地を選んだのだろう。
 「精神的につらい時、きれいな景色を求めてSNSで検索していると、その場所が出てきました。それからすっかりハマってしまい、街のことを調べてみたんです。人口の約半分は65歳以上の高齢者。けれど、街を歩くと坂だらけ。きっと課題は多いと感じた時に、自分にできることがあればと思い、移住を決めました」

“演じる”のをやめる

 “咲く場所”を自ら決めたりんさん。プライベートはどうなのだろうか。
 「恋愛にはずっと興味がなかったんです。高校生の時、同級生が恋愛話で盛り上がっていても、共感できず、笑ってごまかしていました。もう少し時間がたてば、恋愛できるだろうと思っていました」
 20代半ばを過ぎても、りんさんに変化はなかった。しかし、周囲は明らかに“人生のステップ”を進んでいく。SNSを開けば、友人の結婚報告や子どもの写真を載せた投稿が増えた。“私、このままでいいのかな”。焦りのような気持ちが募った。
 「その後、男性とお付き合いしてみました。でも、大切に思う気持ちはあるものの、恋愛感情を抱くことはなくて。いつしか彼の前で“彼女”を演じている自分に違和感を抱くようになりました」
 最終的に、その男性とは“別れ”を選択した。少子化対策が叫ばれる日本において、「“私は貢献できない”という申し訳なさのような感情も込み上げてきた」。その男性との別れ以降は、誰とも交際していないという。
 「見栄を張って“普通”を演じていた時より、いろんな自分を“らしさ”として受け入れた今の方が、楽だし、幸福度が高い気がします。それは、私の悩みを受け止めて一緒に向き合ってくれた、学会員の友の存在も大きく影響しています」

 「多様性」という言葉が飛び交う社会の中で、りんさんは一体、何を感じているのだろう。
 「社会の中では、やっぱり恋愛至上主義のような風潮がありますよね。でも、個人的には、そうした風潮に、もう惑わされたくないかな。周囲の人からは『結婚はまだ?』と言われることもありますが、『今はそういうの興味ないんですよ~』と、うまくかわせるようになりました(笑)。私のような人は、社会ではマイノリティーかもしれませんが、誰もが自由に自分を表現できるといいなと感じます」
 自分ではない“何者か”になることをやめようと、祈りの中で決めた時、自分自身の“生命の尊さ”に気付いた。そして、他者の尊厳にも深く心を寄せるようになった。
 「これはあくまで現在の“わたしの生き方”なので、これから変わる可能性は大いにありますけどね」と笑うりんさんは、現在も“ありのままの自分”を模索中だ。
 「自分は自分だから、ごまかしがきかない」。「世間」や「過去の目標」など名を変えて自分を縛る価値観から、自らを解放することで、“本心”が見えてくることを知った。
 あえて“変化”を選択し、自分の中にある“不変”を見つめた、りんさん。その生き方は、「変動性」「不確実性」といわれる今の時代にあって、自分自身と向き合う「信仰」の価値を教えてくれているように記者は感じた。

◆電子版連載「わたしの『そろそろ』はまだまだ。」のまとめ記事はこちらから。過去の連載記事が読めます。

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