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〈インタビュー〉 映画「ナイトフラワー」原案・脚本・監督 内田英治さん 2025年11月27日
月夜に照らされ咲き誇る月下美人――。そんな神秘的で、はかないヒューマンサスペンスである映画「ナイトフラワー」が、11月28日(金)から全国公開される。貧困から抜け出すためにドラッグの売人となる母親と、社会の抑圧にあらがいながら夢を追う女性格闘家が支え合い、運命を共にするストーリー。原案から作り上げた内田英治監督に、作品に込めた思いを聞いた。
本作は、2020年に公開された、トランスジェンダーの主人公と少女の絆を描いた映画「ミッドナイトスワン」に続く“真夜中シリーズ”第2弾。主演の北川景子が演じる2児の母の夏希は、子どもたちの夢をかなえようと決意し、偶然、手に入れた違法ドラッグを売ろうとするが、夜の街を仕切る一味に目を付けられてしまう。その時に手を差し伸べてくれたのが、風俗嬢としても働く格闘家の多摩恵(森田望智)だった。
「当初は、主人公の夏希のみの作品を考えていました。ある時、頭の中にある“夜の街”に住む彼女たちが、街角でたまたま出会ったんです。
社会から置き去りにされている人や、普段、日の目を見ない人が、がむしゃらに生きる姿には、人間が本来持っているパワーがあります」
北川とは、連続ドラマ「落日」(23年)でもタッグを組んだ。本作で、彼女のさらなる底力を見たいという思いからオファーをかけた。内田監督が、本作を“北川景子第2章”と表現するように、見るものを圧倒する彼女の芝居が、物語を引っ張る。
「夏希がお金をまくシーンを撮る時でしたが、北川さんは“これだけお金に困っていたら、お金はばらまけない”とおっしゃって。役に入った時の気持ちのつくり方は、毎回、勉強になります。(良い意味で)期待を裏切る役作りを加えられるのが映画の醍醐味です。キャストの芝居に注目してほしいですね」
子どもを守るために犯罪に手を染める夏希の心は、フィクションだからこそ描き出せた、善悪を超えた先にある母親としての覚悟そのもの。厳しい現実に立ち向かう夏希と無邪気な子どもを対比させ、物語にさらなる深みを持たせている。
人間の核心に迫る作品を世に送り出す内田監督のアイデアの源泉とは。
「こういう“ナチュラル”な作品のベースとなるアイデアは、全て自分の幼い頃の経験にあります。海外で生まれ、日本に来たらいじめられて、孤独な毎日でした。そんなどん底の時に、映画に出合って心が救われた。人間には希望が必要じゃないですか。本作に限らず、“救いとは何なのか”を描き続けたいんです。だから私の作品には、誰かに救われるキャラクターが多いのかもしれませんね」
記事・写真=鈴木将大
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うちだ・えいじ ブラジル・リオデジャネイロ出身。週刊誌記者を経て、2004年に「ガチャポン」で映画監督デビュー。自身が原作・脚本・監督を務めた「ミッドナイトスワン」(20年)が日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝く。最新作「スペシャルズ」が来年3月公開。