聖教ニュース

「令和8年熊本地震」救援情報 専門家が語る「こころのケア」 2026年8月19日

無理せず、少しずつ安心を取り戻す
筑波大学附属病院 茨城県災害・地域精神医学研究センター 病院教授
茨城県立こころの医療センター地域・災害支援部長・室長
高橋 晶さん

 地震の後に、さまざまな反応が起こるのは、強い恐怖を経験した心と体が、今も身を守ろうとしているためです。心の弱さや、気の持ちようによるものではありません。まずは「怖くなるのは無理もないこと」と受け止め、少しずつ安心を取り戻していくことが大切です。心だけでなく、体が恐怖を覚えていることもあります。

質問① 片付けのために家へ入ろうとすると、ドキドキしてしまう

 家に近づくことで、地震の時の恐怖を体が思い出している場合があります。恐怖を感じているのに無理をして、一人で家に入る必要はありません。
 
 まず、倒壊や、落下物などの危険がないか確認しましょう。命の危険に及ぶ事故が起こる可能性もあります。危険が疑われる場合は中に入らず、自治体や専門家に相談してください。
 
 家に入る場合は可能な限り、家族や知人、支援者など、安心できる人と一緒に入りましょう。「今日は玄関まで」「10分間だけ」など、作業を細かく区切ってください。片付けは、出口に近い場所から始め、いつでも外へ出られるようにしておきましょう。
 

 胸のドキドキが強くなったら作業を中断し、外の安全な場所へ戻ってください。足の裏が地面に着いている感覚を確かめながら、息をゆっくり長く吐いてみましょう。「私は今、ここにいる」「あの地震は過ぎた」「怖くなったらいつでも外に出られる」と、現在の状況を言葉にして確認してください。
 
 当事者への声かけとしては、次のような言葉がよいでしょう。「怖くなるのは当然です。今日は全部片付けなくても大丈夫です。誰かと一緒に、できるところから少しずつ進めましょう」
 
 家に入れなかったとしても、自分を責める必要はありません。「今日は自分を守るために中断できた」と捉えることが大切です。
 

質問② 緊急地震速報を聞くと、地震の場面がよみがえる

 緊急地震速報の音は、過去の恐怖を呼び起こす「きっかけ」になることがあります。音を聞いた瞬間に、当時に戻ったように感じることもあります。
 
 その時は、まず実際の安全を確保した上で、次のような言葉で、「現在」へ意識を戻しましょう。「これは緊急地震速報の音だ。まず身を守ろう」と確認し、決めておいた行動に移ります。
 
 強い恐怖を感じている時は、周囲の状況を落ち着いて確かめることが難しくなる場合があります。まず身の安全を確保し、揺れが収まった後で、今日の日付や、今いる場所を声に出して確認してみましょう。「今は揺れが収まっている」「私は今、安全な場所にいる」と言葉にすることも役立ちます。
 
 こうした対応を「グラウンディング」といいます。
 足が地面に着いている感覚を確かめたり、見えるものや聞こえるものを五感を使って確認したりして、意識を「今、ここ」に戻すセルフケアの方法です。
 
 ①今日の日付や今いる場所を確認する→「認知的グラウンディング」または「見当識の確認」
 ②足の裏や椅子の感触、見えるもの・聞こえるものを確認する→五感を使った「感覚的・身体的グラウンディング」
 
 グラウンディングの目的は、恐怖をすぐに消すことではなく、フラッシュバックなどによって、意識が過去の体験に引き込まれた時に、「今いる場所」「現在の身体感覚」「現在は何が起きているか」へ注意を戻すことです。過去の恐怖に引き込まれた場合も、「今、昔のことが起きているように感じているけど、私は今ここにいる。まず身を守り、その後でゆっくり落ち着けば大丈夫」と声に出し、自分の意識を「今、ここ」へ戻してください。
 

 他には、息を無理に大きく吸おうとせず、口から細く長く吐いてみることも有効です。また、あなたのことを理解していて信頼できる人に「今、緊急地震速報の音で怖くなりました」と伝えましょう。
 
 周囲の人は、つらい体験を詳しく話すことを、無理に求める必要はありません。まずは安全と安心、そして生活上の具体的な支援を優先します。
 
 なお、安全のため、緊急地震速報の通知設定を、すべて切ってしまうことは勧められません。まだ余震の可能性があるからです。「速報が鳴ったら机の下へ行く」「揺れが収まったら家族に連絡する」など、速報の後にすることをあらかじめ決めておくと、少し対応しやすくなります。
 

質問③ 小さい子どもが一人でトイレに入れない、突然泣き出す

 地震の後の子どもには、保護者から離れられない、一人になることを怖がる、赤ちゃん返りをする、突然泣く、怒りっぽくなる、眠れなくなるなどの反応が現れることがあります。決して困らせようとしているのではなく、「大丈夫かどうか」「そばにいてくれるか」を確かめようとしている反応です。
 
 必要があって、このような状態になっていることを家族や周囲の大人が理解し、トイレも「もう大きいのだから一人で行きなさい」などと無理をさせないようにしましょう。しばらくはトイレの前まで付き添い、必要であればドアを少し開けておきましょう。「最初は一緒に入る」「次はドアの外で待つ」など、子どものペースに合わせて少しずつ進めることが大切です。一人でできたかどうかだけではなく、「行ってみようとしたこと」を認めてあげましょう。
 
 突然泣き出した時は、まずそばにいて、「怖くなったんだね」「ここにいるから大丈夫だよ」と伝えましょう。抱っこや手をつなぐなど、子どもが望む方法で安心を伝えてください。食事、入浴、遊び、就寝など、普段の生活リズムをできる範囲で取り戻していきましょう。
 

 地震の映像を繰り返し見せたり、子どもの前で被害について長時間話し続けたりすることは控えましょう。「絶対にもう地震は来ない」と約束するのではなく、「揺れた時は大人が守るよ」「一緒に安全な場所へ行こうね」と伝えましょう。
 
 他の声かけとして、次のような言葉がよいでしょう。
 
 「一人で行くのが怖いんだね。今は一緒に行こう。少しずつで大丈夫だよ」
 「泣いても大丈夫だよ。びっくりした気持ちが出てきたんだね。ここに一緒にいるよ」
 
 もちろん、大人が不安をまったく見せてはいけないわけではありません。当然大人もとても怖いですし、不安になって当然です。「私も少し怖いけれど、安全にする方法を知っているよ」と伝える方が、子どもの現実的な安心につながります。
 

〈相談を考える目安〉

 こうした子どもの反応は災害後に起こり得ますが、次のような場合は、医療機関、学校、保健師、自治体のこころの相談窓口などに相談してください。
 
 ・不安やフラッシュバックが強く、日常生活がほとんどできていない
 ・眠れない、食べられない状態が続いている
 ・数週間たっても改善しない、または悪化している
 ・子どもが保護者からまったく離れられず、登園・登校や生活に大きな支障が出ている
 ・「自分を傷つけたい」「消えてしまいたい」という気持ちがある
 
 相談することは、弱さではありません。安心を取り戻すための大切な方法の一つです。
 
 
 写真:PIXTA