企画・連載

〈SDGs×SEIKYO〉 100回の“がんばれ”より1回の“ありがとう”――「世界で一番あたたかい地図」 2022年4月5日

 日本の車いすユーザーは約200万人。車いすで利用できる場所やサービスの情報が少ないと、“行きたい場所”よりも“行けると分かっている場所”しか選べない。織田友理子さん=千葉県船橋市、副白ゆり長=も、かつてそう実感した一人。彼女が作った、バリアフリー(障壁を取り除くこと)情報を共有し合える地図アプリが今、話題になっている。(取材=掛川俊明、内山忠昭)

この記事のテーマは「住み続けられるまちづくりを」

 4・5センチ――これは、車いすを使う織田さんが、一人では越えられない高さ。「そんな段差は、あちこちにある。だから、車いすを使う人の中には、外出に不安を感じる人も多い」
 そこで、2017年(平成29年)に地図アプリ「WheeLog!」を作った。車いすで走行したルートや利用した場所など、体験に基づくバリアフリー情報を、地図上に写真やコメントなどで共有できるサービス。そのテーマは「車いすでもあきらめない世界をつくる」だ。
 ――02年、創価大学4年生だった織田さんは、「縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー」と診断された。手足から筋力が失われ、やがては歩くことも動くこともできなくなる。患者数が400人と極めて少なく、治療法も見つかっていない。
 病気は緩やかに、けれど着実に進行する。当時、公認会計士を目指していたが、試験で求められるスピードで電卓をたたけなくなった。
 そんな織田さんを支えたのが、夫・洋一さん=壮年部員。05年8月に結婚し、翌年には長男・栄一さん=高校1年=を出産。家族で御本尊に祈り、創価学会の活動に参加してきた。

 出産後から車いすを使うようになり、数メートル先で泣いている息子に駆け寄ることもできない。「一つずつできなくなる。そのたびに落ち込みましたが、同時に“発見”もあったんです」
 歩けなくなり、福祉機器を知った。電動車いすで動くことで、段差や不便な場所を見つけた。「“できない”って経験は、他の人が気付かない“価値”につながるかもしれないって」
 その後、「遠位型ミオパチー患者会」の設立に携わり、やがて代表に。福祉を学ぼうとデンマークへの留学も経験。
 14年には、YouTubeチャンネル「車椅子ウォーカー」を開設し、車いすで利用できるスポットを動画で紹介すると、大きな反響があった。
 「誰かのためになることが、私にもできた。池田先生に学んだ生き方を実践して、“人に尽くせるってことが、こんなに幸せだったなんて”と実感したんです」
 しかし、一人での情報発信には限界があった。そこで開発したのが、地図アプリ「WheeLog!」だ。
 アプリを使った街歩きイベント、学校での体験イベントも開いてきた。今後は、教育現場での活用を進め、都市部だけでない全国各地のバリアフリー情報の集積地にしたいと考えている。

 現在、このアプリは10万回ダウンロードされ、その7割は健常者。そこには「障がい者/健常者」「支援する側/される側」という固定化された関係を超えた、思いやりと助け合いの循環がある。
 「車いすユーザーだけの“閉じられた活動”にはしたくなかった。フラットな社会に向けて、歩ける人もみんなで一緒に参加できる。そんな『世界で一番あたたかい地図』になれたら、住み続けられる街づくりにつながっていくはず」
 ある時、特別支援学校の校長から言われた。「これを使うと、車いすの子ども自身が情報提供者になって、誰かの役に立てる。100回の“がんばれ”より1回の“ありがとう”が、子どもたちを成長させてくれます」

 精力的に活動する織田さんの横には、常に洋一さんがいる。病気の進行に伴い、重度障がい者になった今では、夫の介助なしでは、化粧も髪のセットもできない。織田さんは、洋一さんに対して「私と結婚していなかったら、全く違う人生だったよね。でも、二人だから、毎日エキサイティングな人生になってる。これだけは自信があるよ(笑い)。いつも、いろいろありがとうね」と。
 池田先生はつづっている。
 「ありがとうは〈奇跡の言葉〉である。口に出せば、元気が出る。耳に入れば、勇気がわく」
 夫婦の心も、バリアフリーの挑戦も、“ありがとう”で結ばれている。

  
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