健康・介護

〈Seikyo Gift〉 お風呂のススメ〈健康PLUS〉 2025年2月22日

東京都市大学教授(温泉療法専門医)
早坂信哉さん

 疲れ切った体を心身ともに癒やす“お風呂タイム”を楽しみにしている人は少なくないはず。この健康効果を改めて確認し、入浴をより価値的なものにしませんか。お風呂・温泉医学研究の第一人者である東京都市大学教授の早坂信哉さんに話を聞きました。(2024年12月21日付)
 

大切なのは温熱作用

 入浴による健康効果はいくつかに分けて考えられます。その中で、一番大事なのは「温熱作用」で体を温めること。温熱作用の効果を大きく四つに分けて紹介します。

〈血行の促進〉

 体が温まると、血管が拡張して血液の循環が改善されます。
 すると、全身に酸素や栄養素が効率的に運ばれるようになります。さらに、体内に蓄積した老廃物や疲労物質の回収も促進され、疲労回復が進みます。
 肌の新陳代謝が活性化する効果もあり、血行の促進は健康維持の源ともいえます。
 

〈痛みの軽減〉

 温熱作用は、筋肉の緊張を緩和させる効果があります。肩凝りや腰痛など慢性的な痛みが軽減されます。また体の柔軟性が高まり、関節痛など節々の痛みが和らぐことが期待できます。
 

〈「睡眠の質」向上〉

 湯船に漬かることは「睡眠の質」を改善させる効果もあります。人間の体は、睡眠に入る際に深部体温が低下することで眠気を誘発します。
 温熱作用によって一時的に体温を上昇させ、その後の体温低下のタイミングで就寝すると、熟睡できます。
 

〈自律神経の調整〉

 日中は仕事などで緊張を強いられており、交感神経が優位になっていますが、適温の湯船に漬かることで副交感神経が活性化し、リラックス効果を得ることができます。
 しかし、湯温が42度以上だと交感神経が優位になり、体は緊張状態となり、疲労感を引き起こすことにつながります。血圧が低めで目覚めが悪い方は、朝のシャワーでこうした熱めのお湯を浴びると、心身を活動的にできるプラスの面もあります。
 

●それ以外の効果も●

 温熱作用から見ると“脇役”になりますが、入浴には「静水圧作用」「浮力作用」もあります。静水圧作用では、湯船の水圧によって体に圧力がかかり、血液が心臓に戻りやすくなり、リンパの流れも良くなります。これによって下半身のむくみの改善などが期待できます。
 また、浮力作用は湯船に漬かる際に生じます。肩まで漬かると体重が約10分の1になり、さまざまな筋肉を休めることができます。こうした効果はシャワーではなく、湯船に漬かることで得られるものです。さらに、毎日漬かることで長期的に見ると、要介護のリスクが下がることも分かっています。
 

効率的に疲れを取る入浴法
〈40度のお湯に10分〉

 温熱作用を得るためには40度のお湯に全身浴(肩まで)で10分、半身浴(おへそ辺りまで)で20分漬かると覚えてください。
 10分より短いと効果は少なく、長いとのぼせてしまい、疲れを取るどころか、体に負担をかけてしまいます。
 ※持病がある方は、入浴に関して主治医の指示に従ってください。
 

〈就寝1・5時間前に〉

 入浴で上昇した深部体温が1時間30分ほどたつと下がります。
 そのタイミングで布団に入ると、寝付きが良く、熟睡しやすくなります。
 帰宅時間が遅い場合は難しいと思いますが、それぞれの生活リズムに合わせて就寝時間から逆算してお風呂に入ることをおすすめします。
 

〈食後30分~1時間後に〉

 食後すぐに入浴すると、胃腸に集まっていた血液が全身に循環し、消化不良を起こす可能性があります。また水圧によって消化器の働きを妨げる恐れもあります。
 食後30分~1時間後の入浴を心がけてください。
 また、入浴前後は脱水症状を防ぐため、コップ1杯程度の水を飲みましょう。
 

〈入浴剤の活用〉

 入浴剤は、温熱作用や保温効果を高めることが明らかになっています。特に、寒いこの時季には活用をおすすめします。
 

●入るのを控える時●

 体温が37度5分以上ある時は、基本的には入浴を控えます。脱水症状や体温上昇の加速など入浴事故のリスクが16倍以上になることが分かっています。
 また予防接種を受けた日の入浴は基本的にはいいといわれていますが、コロナワクチンなどで副作用がある時は控えてください。
 

ヒートショックを防ぐ

 急激な寒暖差による血圧の乱高下で脳卒中や心筋梗塞、意識障害などを起こすヒートショックには2種類あります。
 一つ目は「山型ヒートショック」。暖かい居間から寒い脱衣室に移り、服を脱ぐと血圧は上昇し、浴室も寒いと上昇した血圧は維持されます。
 その状態で42度以上の熱い湯船に漬かると、血圧はさらに上がり、体が温度に慣れてくると血管が拡張して急に血圧が下がります。この血圧の乱高下で発症する可能性があります。高齢者に多い傾向があります。
 対策は次の通りです。①脱衣室は20度以上の室温にする②浴槽にふたをせずにお湯を張ったり、服を脱ぐ前にシャワーをかけ流したりして浴室を温める③手足などにかけ湯をしてから湯船に漬かる――ことです。
 また、血圧が急激に下がる場面では「谷型ヒートショック」のリスクがあり、湯船から立ち上がる時に注意が必要です。湯船に漬かってしばらくすると血圧は下がり、湯船から立ち上がる時も水圧から血管が解放され、一層下がり、意識障害を起こして転倒やおぼれの恐れがあります。若い方も注意が必要です。
 ①長時間の入浴は避ける②湯船からゆっくり立ち上がる、などの対策が有用です。
 

血圧の推移(イメージ)

 はやさか・しんや 博士(医学)。温泉療法専門医。自治医科大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科修了。浜松医科大学医学部准教授、大東文化大学教授などを経て、東京都市大学人間科学部教授。一般財団法人日本健康開発財団温泉医科学研究所所長。日本入浴協会理事。『最高の入浴法』(大和書房)など著書多数。

※本人写真は本人提供
 

※写真はPIXTA
 
 

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