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豪雨災害が激甚化・頻発化する「今」を生き抜くために――東京通信大学・松尾一郎特任教授へのインタビュー 2026年10月11日

 気候変動による風水害の激甚化・頻発化が指摘される昨今、千葉県をはじめ、北陸や東海地方などで豪雨被害、台風被害が相次いでいます。自然災害が猛威を振るう現実にあって、命を守るためにできる防災の“一歩”とは何なのでしょうか――。災害時に取るべき行動を、時系列で決めておく防災行動計画「タイムライン」の第一人者である、東京通信大学特任教授の松尾一郎さんにインタビューしました。(聞き手=水呉裕一)

 ――ウェザーニューズの調査によると、8月に発生した千葉豪雨の被害報告のうち、55・7%が「浸水想定区域」「低位地帯」の“外”だったそうです。ハザードマップで“色が塗られていない”場所で被害が多発した豪雨を、どのように捉えておられますか。
  
 雨の降り方にしても、豪雨被害の大きさにしても、気象災害のフェーズの変化を多くの人が実感しているのではないでしょうか。地球温暖化による異常気象や、海水温の上昇による降水量の増加は、ここ十数年にわたって世界で議論されてきましたが、現実の上で、気象災害が、これまでのものとは次元が異なってきている。今、その“変曲点”を目の当たりにしている時だと捉えています。
 さらに今年は、太平洋の中・東部の赤道付近の海面温度が平年より高くなる「エルニーニョ現象」が、観測史上最強クラスとなっており、自然災害が増幅されるとの懸念もあります。
 気温上昇による氷河の縮小が一因とされる、本年8月末にネパールと中国の国境付近で発生した大規模な土石流被害、ヨーロッパの記録的な熱波や干ばつ、山林火災など、自然の変化は誰が見ても明らかです。この変化に人類がどう対応し、生き延びていくか――いよいよ皆で真剣に考え、行動に移していかなければならない時がきているのだと考えています。

繰り返される事故

 ――災害への危機感はあるけれども、避難先の確認や備蓄といった具体的な行動には、なかなか移せていないという人は少なくありません。どうすれば災害を“わがこと”としていけるのでしょうか。
  
 実際、いつ起こるか分からない災害に対して、常に意識を向けるのは簡単なことではありませんよね。そもそも私たち人間には“正常性バイアス(正常化の偏見)”が働きます。これは、異常事態や身の危険に直面した際に、“大したことはない”“自分は大丈夫だ”と都合の悪い情報を無視したり、過小評価して心を守ろうとしたりする心理メカニズムです。
 誰だって、災害被害などをニュースで目にした時に“自分だったらどうするか”なんて想像したくはありません。ですから、まずは、こうした“偏見”が生じることを知ること。そこから、自然災害が激甚化する中で“わが家の防災は大丈夫かな?”と実際の備えや心構えを立ち止まって確認することが“第一歩”だと思います。
 その上で知ってもらいたいのは、近年の水害で発生している痛ましい事故のほとんどが、実は過去にも繰り返し起きている同じようなケースだということです。
 今夏の千葉豪雨ではアンダーパスの冠水による事故が注目されましたが、報道に接して私が思い起こしたのは、16年前に起きた可児川豪雨災害でした。岐阜・可児市のアンダーパスで、母と娘を乗せた車が立ち往生し、氾濫した可児川の水が流れ込むという事故です。何とか娘さんだけは車から脱出して助かったのですが、車が濁流にのみ込まれる直前、母親が「娘をよろしくお願いします!」とそばにいた男性に託した出来事は、当時、大きなニュースとなりました。
 アンダーパスでの水害は、全国どこでも想定できることなのに、どうして今日に至るまで同様の事故が繰り返されるのか――。個々人が災害を“わがこと”として捉え、防災意識を醸成していくことが必要です。同時に、国や各地の自治体・団体にあっても、他の地域で起きた災害を“わが地域ごと”と捉え、同じ事故を繰り返さないための制度や仕組みを整えていくことが大切だと思います。
 防災の基本はあくまで「自助」ですが、命を守るための社会の構築を、自身が主体者として地域の人々と共に行っていかなければ、今後の自然災害には太刀打ちできなくなると私は考えています。

命を守る社会築く“対話”の重要性

 ――重要な観点ですね。一方で、仕事や家事、育児・介護など、多忙な日常では、防災の優先度がどうしても低くなってしまう人もいます。そうした人たちにとって、自らが主体者となって地域の防災力を高めていくことは、決して簡単ではありません。
  
 そうですね。だからこそ、私は“対話”がこれからもっと重要になると思います。現在、町会や自治会、家庭などのコミュニティーにおいて、災害リスクを踏まえて「いつ」「誰が」「何をすべきか」を事前に決めておく防災行動計画「タイムライン」が一般的になってきました。作成にあたって欠かせないのが“対話”です。
 周囲の災害リスクを確認し、自身の置かれている環境や状況を踏まえて、命を守るためにはどうすればいいかをコミュニティーの中で考え、話し合う中で、“自分だったら”と、災害を“わがこと”として思いを巡らせる。その過程が大事なんです。そうした機会が“いざ”という時の行動に結びつくし、防災に対して関心を抱いていない人の意識が変わるきっかけになると私は信じています。
 その上で、今、私が防災アドバイザーを務める東京・足立区で実践しているのは、小・中学校における防災訓練を活用した地域一体の防災力向上への取り組みです。学校での防災訓練と聞けば、児童・生徒のみが校庭や体育館に避難するものを想像する人も多いかと思いますが、足立区では、保護者や教職員、学区の地域の人々も含めて開催しています。そうすることで、町会・自治会独自で開催している防災訓練には、なかなか参加できない現役世代の保護者にも防災を考える機会にしてもらえると思いますし、家庭における防災の会話が生まれる可能性もある。災害や防災と無関係では生きていけない時代にあって、これからはより、幅広い世代を巻き込みながら、地域全体で防災について考える方法がないかを探っていきたいと考えています。

「共助」が働く地域

 ――「自助」のみならず、「共助」が働く社会を築くために必要なことだと思います。その上で、本連載のルポ取材で水害の被災地を訪ねた際、「共助」における“理想と現実”が話題となりました。高齢化も進む中、いつの間にか“介助する側”だった人が“介助される側”になっているケースもありますし、実際には他者のサポートまでは難しい場合もあると思います。「共助」が働く地域の特徴は何だと思われますか。
  
 「西日本豪雨」(2018年)、「令和2年7月豪雨」(2020年)の被災地のルポでしたね。地域防災の限界とまでは言いませんが、全国各地の自治会しかり、自主防災組織での担い手の高齢化は大きな課題となっています。その中で、“理想と現実”のギャップを少なくするためにも、「誰が」「どんな対応をするか」の打ち合わせは、一度行って終わりではなく、現状把握も含めて定期的に話し合うことが大切だと思います。
 その上で、先に触れた東京・足立区の防災訓練のような、若い世代を巻き込む工夫も大切だと思うのですが、私自身の実感として、さまざまな世代を橋渡しできる“接着剤的”な役割を果たす人がいる地域防災は強いと感じます。
 ルポの中では、災害の経験を生かそうと、人とのつながりを結び留める学会員の姿が描かれていました。私は学会員ではありませんが、私の知る限り、創価学会には信仰を根幹に、積極的に地域貢献に汗を流している人が多いと思います。そういう人たちに地域の共助の責任を全て担わせるわけにはいきませんが、自らが住む地域のことを“わがこと”と捉え、使命感を持って行動できる人がいる地域は、「共助」がしっかりと機能すると感じます。

 ――創価学会は生命尊厳の哲学を根本的な理念として活動しているため、災害から命を守る防災に関心を抱いている人が多いのかもしれません。その他、地域防災という観点で創価学会に期待することがあれば、お聞かせください。
  
 私は創価学会の千葉文化会館のそばにあるマンションに住んでいるのですが、先日の千葉豪雨の際にこんなことがありました。
 私のマンションの駐車場の土地は周囲よりも低くなっているんですが、マンションの広報に“車の水没が不安な方は、創価学会の駐車場に移動させてください”と載っていたんです。とても安心感を覚え、多くの人が車を移動していました。おそらく、近隣の他のマンションにも同様に周知されていたのだろうと思います。
 また他の地域では、一時的な避難場所として提供している会館もあると聞きます。住民の安心・安全につながる地域貢献はぜひとも、続けていただきたいと思います。
 またもう一つ、災害からの避難に関して学会員の皆さんに期待したいことがあります。
 それは“避難の後押し”です。災害が発生した際の避難行動への意識は、世代によってギャップがあるものの、多くの人が周囲の人の対応を見て避難行動に移すといわれています。
 実際に、他者の行動に感化されて避難した人たちに話を聞くと、逃げようと思ったきっかけは、行政による避難の呼びかけでも、防災行政無線でのアナウンスでもなく、知人からの“逃げようよ”との声かけだったといいます。この点からも、地域コミュニティーが希薄化している現代にあって、地域に根差している学会の方々の役割は本当に大きい。そのことを私は創価学会の皆さんに知っていただけたらと思っています。
  
  

【プロフィル】

 まつお・いちろう 1955年、長崎市生まれ。建設コンサルタント会社を中途退社後、日本災害情報学会理事、東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター客員教授などを経て、東京通信大学特任教授を務める。米国でタイムラインの仕組みを調査し、三重県紀宝町で日本初となるタイムラインを策定。以来、全国の自治体への普及をけん引している。
  
  

 こちらから、本連載の過去の記事が見られます。

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