エンターテインメント
〈インタビュー〉 映画「ラプソディ・ラプソディ」で監督・脚本・出演の“3役”を務めた利重剛さん 2026年4月30日
人付き合いを避けながら生きてきた主人公の戸籍に、見知らぬ女性の名前が入っていた――。そこから人生が動き出す、優しくユーモラスな人間ドラマを描いた映画「ラプソディ・ラプソディ」が、あす5月1日(金)から全国で順次公開される。一人で監督・脚本・出演と“3役”を務めた利重剛さんに、作品の魅力や映画製作への思いを聞いた。
――高橋一生さん演じる主人公・夏野幹夫の、ちょっと天然で“絶対に怒らない男”というキャラクターや、本人も気付かずに結婚していたストーリーなど、ユニークな設定です。
オリジナルの脚本ですが、実は、それらの発想は数十年前のものなんです。
私や友人が結婚し、婚姻届を役所に出す時の“あっけなさ”が話題になって。保証人が必要ですが、それもある意味“誰でもいい”わけで、その時は「知らない人と結婚していたら面白いね」という雑談で終わりました(笑)。
キャラクターについても、優しいからこそ人に影響を与えずに生きたいという“一歩引いた生き方”をしている人が多いかもしれないと考えたことがあって。こういう設定ならどんな反応するのかなとか、いろんなことが頭の中でくっついて形になっていきました。
――アイデアが生まれるのは、どういう時ですか。
だいたい、ばか話をしている時です(笑)。「それ、おもしろいねー」という程度の会話が、ある時にフッとつながるんです。散歩中とか。
中学・高校の時に、夢中で映画を見ていたので、その時代に映画の“シャワー”を浴びたのも財産になっています。
あとは、子どもが生まれたことも大きかった。予想のつかないことばかり起こるし、驚きもあり、感動もあり、なんか胸が痛くなるときもあり。映画を見るよりもエンターテインメントで(笑)、今まで感じたことのない感情がたくさん芽生えました。
――監督、脚本、出演の3役を務めて苦労したことは。
当分、作るのはいいかなと思うぐらい大変でした(笑)。特に、監督って傷つくことも多いんです。出演者やスタッフたちそれぞれの努力を全て受け止めて、それを人に見せられる形に作り上げていく――結構、孤独です(笑)。
でも同時に、毎日が幸せなんですよね。自分が「この指、止まれ」と始めて、いろんな人が集まってくれて、「ああだ」「こうだ」と一生懸命に考えてくれる。それはそれは、幸せなことなんです。
――主人公の他にも生きづらさを抱える人物が登場します。不器用ながらも助け合ったり、結び付いたり。物語から、今を生きる人々へのメッセージを感じます。
メッセージよりも、面白がって見てくれたらいいな、という考えが先ですね。
以前、僕の師匠の岡本喜八さんから「伝えたいことは、ほんの一かけら、一ぜりふあればいい。見てくれている間は、面白いと感じてもらうことが大切だよ」と教わりました。
もちろん、いろんな要素を詰めますが、メッセージを前面に出して“映画が小さくなる”のは嫌だし、言葉だけで伝えるんだったら他にさまざまな方法があるし、わざわざ映画にする必要もないと思うので。
何かを感じる機会や考えるヒントを
――映画製作で心がけていることは。
映画の見方って、本当に人それぞれで、心が動くシーンもバラバラ。だからこそ何かを感じるきっかけや考えるヒントになるようなものが詰まっている“生きた映画”をつくろうと努めています。いろんな感情を起こせるような“ささくれ”がいっぱいある作品になれば、映画は終わってもその人の中で“何か”が続いていく。
映画は、人に見てもらって初めて完成するので、「100人」が見たら「100本の映画」が出来上がる。だから、映画はすごい。画面は平面でも、多くの人のさまざまな感情に訴えて、いろんな思いが膨らんでいくんですから。
◆プロフィル
りじゅう・ごう 1962年7月31日生まれ、神奈川県出身。81年、高校時代に監督をした自主製作映画「教訓I」が、ぴあフィルムフェスティバルに入選。同年公開の映画「近頃なぜかチャールストン」(岡本喜八監督)では、主演・共同脚本・助監督を務める。2001年、自身が監督の「クロエ」が、ベルリン国際映画祭に出品された。これまで、俳優業を続けながら多くの作品で監督・脚本を担っている。
映画製作で大切にしてきたことを尋ねると、柔和な表情を保ちながらも熱弁を振るい、止まらない。
「誰にスポットを当てるかで主役は変わるもので、出演者に上下はありません。主役と脇役という単純な振り分け方も違うと思う」「自分の人生を生きるという意味では、誰もが自分の人生の主人公。それが常にテーマになっています」
次いで、「現代社会で悩みを抱える若者が目の前に現れたら、どう接しますか」との質問をしてみると――。
「この人だったら話したいなと思われる存在でいられたら、それはうれしいことじゃないですか! あ、でも、普段から結構、道を聞かれる方なんで、もともと話しかけやすいと思われているのかな? でも、それもありがたいですよね」
映画人としての矜持と、人柄がにじんだ言葉に、胸が熱くなった。
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