企画・連載

〈SDGs×SEIKYO〉 “臭い”から始まった価値創造――牛と地球に優しい酪農家 2022年2月2日

 牛が人の3倍もいる町――オホーツク海に面する北海道・興部町は、人口約3700人に対して、乳牛は約1万2000頭。この町でオーガニック牧場を運営する酪農家の支倉博さん(49)=支部長=は、「そんなつもりじゃなかったけど、いつの間にかSDGs(=持続可能な開発目標)になっていたみたい」と言う。(取材=掛川俊明、菅野弘二)
 

この記事のテーマは「気候変動に具体的な対策を」

 取材日の朝、牧場の温度計はマイナス17度を示していた。厳寒の中、牛たちが一心に食べていたのは、オーガニック(農薬や化学肥料に頼らない有機農法)の牧草だった――。

 牛のふん尿などは、地球温暖化の原因となる温室効果ガスを排出するとされる。しかし、支倉牧場ではそのふん尿を肥料に変え、有機農法に活用する。化学肥料や農薬による水質汚染を防止し、適切な土壌管理とともに、気候変動の抑制につながる取り組みでもある。

 「いや、そんなカッコいい話じゃないんですよ! 目の前の課題にがむしゃらに挑戦し続けていただけなのに、最近、急にSDGsだっていわれるようになって(笑い)」
 

 
 祖父が牛1頭で創業し、興部町に移ってきたのが1971年(昭和46年)。今では東京ドーム36個分の牧草地を有し、340頭の牛を飼育している。

 86年には、牛が自由に動き回れるフリーストール(放し飼い牛舎)を造った。「狭いスペースで動けないんじゃ、“牛がかわいそう”って。やっぱり牛への愛。愛情をもって尽くした分だけ、牛乳で返してくれますよ」

 その後は機械化を進め、朝晩の乳量や乳質、運動量などを把握するシステムを導入し、作業を効率化。93年には農事組合法人を設立し、従業員の福利厚生も充実させるなど、先駆的な取り組みを重ねてきた。

 「当時は(創価学会の)男子部の活動が忙しくてね。ここら辺じゃ、1人に会うのにも車で1時間かかるでしょ。どうすれば仕事が早く終わるかって、題目あげる中で良い縁にも恵まれて導入したって感じです」
 

 
 支倉牧場では、年間5000トンほどの排せつ物が出る。そこで2010年、牛のふん尿などをメタン発酵させて、発電・熱利用するバイオマス事業を始めた。

 「実際は『地球温暖化対策のために立ち上がった』なんて理想があったわけじゃない(笑い)。町には宅地面積の4倍もの牧草地があるので、臭いが辺りに充満して、転勤してきた人とかはびっくりするんです。当時、牧場の目の前に小学校があったから、子どもたちのためにも、その臭いをどうにかしたくて。つまり、ただ“くせえからなんとかしないと”って感じです(笑い)」

 ふん尿を発酵処理すると、副産物として良質な肥料(消化液)も製造される。「消化液があるなら、良質なオーガニック飼料を作れるんじゃないか」と企業に頼まれ、消化液を使った委託栽培も引き受けた。やがて、支倉牧場の170ヘクタールの牧草地を全てオーガニックに切り替え、有機の認証事業者にもなった。

 「採算の上では厳しかったけど、今では有機栽培に国から補助金も出て。不思議とつながってきました」。さらに14年からは、有機の牧草や餌だけを食べて育った「オーガニックビーフ」の生産にも取り組む。

 「オーガニック事業は、まだまだ先は見えませんが、少しでも“未来の酪農家たち”のために、何かを残していきたい」
 

 
 牛に優しく――そう考え続けていたら、道内の機械化のモデルケースになっていた。

 人に優しく――そう決めたから、伝統的な家族経営の過酷な労働環境を変えることができ、外国からの技能実習生の受け入れも先駆的に進められた。

 「“自分発”の取り組みとか、そういう才能なんて何もないんですよ(笑い)」。ただ、未来まで続く、持続可能な酪農を考えた時、「規模拡大だけではなく、牛にも人にも地球にも優しい、小さなモデルケースになれたらって」。

 誰に認められなくても、創価学会員として、地域の希望の灯台となり、地域に貢献する生き方だけは貫いていきたい。

 「周りからはいつも“あいつ、また何かやっているなあ”って思われてますよ(笑い)。だけど、不要な牛のふん尿からエネルギーを生み出すなんて、まさに『価値創造』じゃないですか。これぞ“うっしっし”な酪農家ですよ!」
 

 
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【支倉さんのインタビュー記事はこちら】