企画・連載

〈Seikyo Gift〉 尾木ママと青年教育者が語らい 2025年6月28日

「褒める」とは「認める」こと
「叱る」とは「説明する」こと

 教育本部の友は「子どもの幸福こそ教育の目的」との信念のもと、励ましの人間教育を広げている。“尾木ママ”こと教育評論家の尾木直樹氏と共に、青年教育者委員長の川上一郎さん(小学校教諭)、青年教育者の細谷優花さん(中学校教諭)が、子どもとの関わり方などについて語り合った。(3月31日付)

 川上一郎さん 私は小学校で教諭として働いています。多様な子どもたちがいる中で、大切なことは何だと思いますか。
 
 尾木直樹氏 子どもたちと接する時、「褒め方」と「叱り方」が重要だと思います。
 
 「褒める」とは、おだてて持ち上げるのではなく、「認める」こと。「友だちに親切にできた」「姿勢がきれいだね」など、子どもができたことを認めるのです。どの子もみんな、素晴らしいのですよ。
 
 「叱る」は叱責じゃなくて、「説明する」こと。僕が子どもの頃、何かあると父は、怒鳴ることなく、「こっちに座りなさい」と呼び、いけない理由を説明してくれました。
 
 子どもは先生や親に怒られて一時的にやめたとしても、理解していないと、また同じことを繰り返す。本人の納得が大切です。
 
 あと僕はね、小さなこともオーバーリアクションで褒めちゃうんです。大勢の子に伝われば、オーバーでもいい。白い目で見る子がいても、個別に先生の意図や理由を丁寧に伝えることが大事です。

 細谷優花さん 近年、学校現場を取り巻く環境が大きく変化し、休職する教員が増加しています。大変な中でも希望を失わず、心を豊かに保つには、何が大切でしょうか。
 
 尾木 教員は大変よね。スーパーマンのような“教師個人の力”に頼るのではなく、職員室での協働性を高めていくことが重要だと思う。
 
 特に愚痴をこぼせる関係性を職場でいっぱいつくること。僕は、すぐに自分の弱さを見せちゃうの。でも、それがきっかけで他の人も愚痴をこぼせるようになるのよ。
 
 子どもたちも一緒。いろんな家庭がある中で、子どもを安心させるには、自分の弱みも出せる関係性をつくることです。「明るく愚痴をこぼせる」。これが教師や子どもにとって大切です。

子どもの良いところをいっぱい見つけよう!

 川上 教育本部では、池田先生の提案により、約40年前から教師と子どもの成長の軌跡を書きとどめる「教育実践記録運動」が始まり、今では18万事例を超えました。
 
 尾木 記録はとても大事ですね。
 
 僕はポケットに小さなメモを入れて、子どもの良いところを見つけたら、すぐ書き付けていました。ノートにクラスの一人一人のページをつくって、そこに良いところを書きためるんです。
 
 ページが真っ白な子がいる時は、「よし、今日はあの子の良いところを見つけよう」と決めて、いっぱい見るようにしてきました。それを保護者の方に伝えることが楽しみでしたね。
 
 学年会や生徒指導で話題になった時には、メモを見返して話すと、具体的で説得力が増すんです。子どもとの信頼は、こうした小さな積み重ねです。

 細谷 いじめの厳罰化については、どのようにお考えでしょうか。
 
 尾木 フランスや韓国をはじめ世界中で、いじめの厳罰化が進んでいます。僕は、いじめたくなる心情や背景、家庭環境などを把握しないと、根本的な解決にはならないと思います。
 
 重要なのは「いじめは人権侵害である」と認識することです。子どもの自尊心を高める人権教育が大切です。
 
 ある中学校でのことです。1年生の子が掃除用具のロッカーに閉じ込められていました。僕が加害者の子を怒ると、被害者の子が「いいんです先生。僕、喜んでいるんです」と言ったのです。
 
 僕はその子に、嫌がらなきゃいけないことを説明しました。これまで、喜んでいるふりをする子を何人か見てきました。いじめられることで自分の存在を感じるというのはゆがんでいます。
 
 さらに近年のいじめは、ほとんどがネットやスマホを通して起きています。デジタルモラルについても対策しなくてはいけません。
 
 川上 いじめを「人権」の問題として捉えていくことが大切なんですね。最後に、青年教育者へのエールをお願いします。
 
 尾木 大切なのは、目の前の子どもたちです。共に歩み、その心に分け入っていく教師になってほしいです。
 
 「若い」というだけで教師の素養にあふれています。子どもに伸び伸びと向き合ってください。もし、若い先生をいじめる先輩教師がいたら、僕が許さないわよー(笑)。