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インタビュー 全盲の弁護士 竹下義樹さん――共に生きる社会を 2021年2月23日

  • 企画連載 私がつくる平和の文化Ⅲ 第2回 

 「私がつくる平和の文化Ⅲ」の第2回は、日本視覚障害者団体連合会長で、京都市を拠点に活動する全盲の弁護士の竹下義樹さんです。障がい者を取り巻く現状や、共生社会を築く鍵などについて話を聞きました。(聞き手=木﨑哲郎、歌橋智也)
  
  

弁護士を志したきっかけ

 ――竹下さんは、中学3年の時に外傷性網膜剝離で失明しますが、その後、弁護士を志し、それまで行われたことのなかった点字による司法試験を実現させます。そして、9回目の挑戦で合格し、弁護士になりました。日本で初めての全盲の弁護士です。
   
 僕は幼い頃からわんぱくで、悪さはするわ、勉強はしないわ、それで、親父や先生にどつかれ、校長室で立たされ、とにかく、じっとしていられない子どもでした(笑い)。落ち込んでも、「なんとかなるわ」とすぐに気持ちを切り替える楽天的な性格で、どこかアホなところがあるんですね(笑い)。
 
 だから目が見えなくなった時も、「これで人生終わりや」とは考えなかった。もちろん、漫画は読めないし、自転車にも乗れませんが、自分の運命を呪ったり、誰かを恨んだりしたことはなかったです。
 
 弁護士を目指したのは、憧れからです。目が見えていた頃にテレビで見た弁護士の印象が強く残っていたんです。当時、視覚障がい者の学校の高校生でしたが、弁護士になるのがどれだけ大変かは、少しも分かっていませんでした。だから、先生から「アホッ! 夢みたいなことを言うんじゃない」と一喝されましたよ(笑い)。
 
 でも僕は、「目が見えないから」と諦めるのではなく、「これがやりたい」と思ったら、「どうすればできるだろう」と考えて動く性分です。大学進学後、仲間や先輩弁護士の応援をもらいながら、司法試験の点字受験を法務省に要請するわけですが、前例がないものですから何度もはね返されてしまう。すると余計に「なにくそ!」と意地になって解決策を考える。いっぺんやろうと思ったら諦められない人間なんです。
 
 あと大学生の頃、病院でのマッサージのアルバイトで、労働災害で倒れた人や、医療ミスの被害を受けた患者さんと接したことも大きかった。こういう理不尽に苦しむ人たちを守る弁護士になりたいと思いましたね。こうして、社会を知り、何度も試験に挑戦する中で、「弁護士とは何なのか」「弁護士になったら自分は何ができるのか」との考えが深まり、30歳の時に合格することができました。
  

合理的配慮を深めていく

 ――その後、人権弁護士として活躍されます。2016年に施行された「障害者差別解消法」(別掲)の制定にも尽力されました。障がい者を取り巻く現状をどう見ておられますか。
   
 法律ができたからといって、世の中がスパッと変わるわけではありませんが、少しずつ変わっている実感はあります。都道府県の条例が整ってきていることも、流れをつくっています。今後、この法律についてどれだけ理解を広げ、国民全体でどう生かしていけるかが重要です。
 
 「障がい者を差別したらあかん」とは、誰もが分かっていることです。でも「何を言ったら」「何をしたら」「どういう時に」差別になるのかは分かりにくい。例えば、飲食店にペットを連れて入ってきたら、他のお客さんは、衛生面で気になったり、怖がったりするわけですよね。するとお店は「動物を連れての入店はご遠慮ください」という看板を出す。でもこれでは、盲導犬と共に社会生活を送る視覚障がい者を、無意識のうちに排除してしまうわけです。
 
 障害者差別解消法の制定により、「合理的配慮」という言葉が徐々に浸透してきました。合理的配慮とは、障がい者も、健常者と同じように社会参加できるよう、サービスなどの提供者が、過度の負担にならない範囲で調整・変更すること。先ほどの例でいえば、盲導犬(補助犬)同伴が可能な店であるとステッカーで告知して入店を拒否せず、従業員にも対応を周知させたりすることなどです。
 
 他にも、建物内の段差に携帯スロープを設置する、筆談・読み上げ・手話で意思疎通を行う、障がいに応じて休暇や休憩時間を調整する、などさまざまな例が挙げられます。どうすれば合理的配慮ができるのか。障がい者も健常者も理解し、社会に根付かせていくことが次の課題でしょう。

視覚障がい者用のタイプライターで点字の文書を作成
視覚障がい者用のタイプライターで点字の文書を作成

 ――新型コロナウイルスの感染拡大により、障がいのある多くの方々は困難に直面しています。
   
 昨年11月、視覚障がい者が駅のホームから転落して亡くなる事故がありました。こうした事故をなくすために声掛け運動を推進していたのですが、コロナの影響で周囲の人も近づきづらくなり、声掛けが減ってしまった。その中で起きた悲しい出来事でした。
 
 日常生活でもいろんなトラブルが発生しています。例えばスーパーで買い物をする時、目の悪い人は、品物を手で触って、欲しい物かどうかを確かめます。でも今は、店員から「あんまり触らんといて!」と注意されてしまう。レジの列に並ぶ時も、前の人に近づき過ぎて、「近寄らんといて! そこにちゃんと足の絵、描いてあるやん!」となる。こうした苦情が、いっぱい寄せられています。
 
 一方の障がい者たちも、「こんなん言われて一体どうしたらいいんや」と訴えてくるわけです。新しい生活様式といっても、物理的な距離を取るのが難しい障がい者はどうすればいいのか。まさに合理的配慮が問われています。
 
 僕は弁護士ですが、「裁判になるのはあかん」と思っています。裁判になったら対立しか生まれません。だから、そうなる前に解決する仕組みをつくる必要があると思うんです。「損害賠償を払え」じゃなくて、どうすれば同じ場所で共に暮らせるようになるか、みんなで考えていく。そのプロセスを一つやり、二つやり、としていくうちに、差別意識もなくなっていくだろうし、心のバリアフリーも自ずとできていくと思うんです。コロナ時代は、そのことを真剣に考えるチャンスではないでしょうか。
  

「影響し合う」関係

 ――共生社会を築いていく上で、何が一番大切だとお考えですか。
   
 「共生社会」という言葉が定着した割に現実が伴っていない原因は、お互いを知る「対話」が進んでいないからだと僕は思っています。
 
 よく「支え合う」って言いますよね。社会を構成している以上、誰もが「支え・支えられている」と、観念的には言えるかもしれません。

 ですが、障がい者の僕からすると、健常者を「支えている」という実感はあまり持てません。「支え合う」というより、「影響し合う」という方がしっくりきます。そこには、障がいがあろうとなかろうと、対等性を感じるからです。
 
 健常者は障がい者の言うことに耳を傾ける。障がい者も健常者の言うことに聞く耳を持つ。その時、相手が不自由に感じていることだけでなく、どんなことを考え、何をしたがっているのか、相手の思いや発想を知る。そうやって互いの理解が深まれば、自ずと相手から影響を受けるわけです。

 影響し合うとは、「認め合うこと」と同義です。その距離感や対等性が成り立って初めて、共生社会はつくられていくと思うのです。
  

仲間がいるからこそ

 ――竹下さんは、山登りをはじめ多彩な趣味をお持ちです。そのエネルギッシュな生き方を可能にしているものは何でしょうか。
   
 先ほども申し上げましたが、「目が見えないからやめよう」というのは、僕の人生にはありません。「見えないけど、やりたい」「どうすれば、やれるやろう」と常に考えています。
 
 スキーだって、一生懸命、訓練を受けて、モンブランのバレーブランシュ氷河を標高3650メートル辺りから降りてきたこともあります。山登りは、富士山、北アルプス、八ケ岳も登りました。ヒマラヤにも2度、行きました。
 
 こうした僕の経験は全て、仲間がいたから実現できたことです。“目が見えない竹下でも、どうしたら夢が実現できるか”を考えてくれる素晴らしい仲間がいる。僕の幸せは、全てここに詰まっていると思います。
 
 そして何より、妻(寿子さん)がいなかったら、ここまで来ることはできませんでした。司法試験合格を目指していた頃も、「いい加減、夢を諦めたら?」とか、「子どもができたのに、いつまでこんな生活を続けるの?」とか、後ろ向きなことは全く言われませんでした。

 生活が苦しく、借金をした時期もありましたが、妻のおかげで暗い夫婦にはならなかった。弁護士になってからも、毎晩、妻が事務作業を手伝いながら、僕の夢を支えてくれました。
 
 僕は、人間らしさの最たるものは「夢を持つこと」だと思っています。それは人間にしかできないし、人間の本質的な部分だと思う。だから、障がいがあるために夢が持てないのであれば、平和な社会とは言えないのです。
 
 平和とは、戦争がないことが大前提ですが、戦争がないことイコール平和だとは思いません。今、コロナで命が奪われていく現実がある。これは平和な世界ではない。貧困が原因で人間らしさを維持できない人がいる。これも平和ではない。障がいがあるという理由で人間らしさが奪われてしまう人がいる。これも平和でない。
 
 皆が幸せに暮らすために平和というのが必要であって、そのために、法律も、政治も、経済も、宗教も、地域社会も、いろんなものが存在している。平和の文化とは、一人一人が幸せになり、夢を持てるようにするために、あらゆる分野でみんなが頑張る。そんな世の中をつくっていくことだと思うのです。

 <プロフィル>たけした・よしき 弁護士。1951年、石川県輪島市生まれ。龍谷大学卒業。つくし法律事務所所長。中学時代、外傷性網膜剥離のため失明。多くのボランティアに支えられて司法試験の点字受験を実現させ、81年に合格。日本初の全盲の弁護士となる。長年、社会的弱者の人権擁護に取り組み、現在は日本視覚障害者団体連合会長を務める。
  

 ※障害者差別解消法
 2006年に国連で採択された障害者権利条約を、日本は14年に批准。前年の13年には障害者差別解消法が制定され、16年に施行された。同法では、行政機関や民間事業者等が、障がい者に対して正当な理由なく、障害を理由に差別することを禁止する(「不当な差別的取り扱い」の禁止)とともに、障がい者から何らかの対応を求められた際に、過度な負担にならない範囲で機会の平等を保障するために努めること(「合理的配慮」の提供義務)が求められている。「不当な差別的取り扱い」「合理的配慮」の定義については、今後も社会全体で議論を深める必要がある。この法律により、理不尽な扱いを受けた障がい者が、「解消法違反なのでやめてください」と、法的に抗議できるようになった意義は大きいとされる。(参考文献=荒井裕樹著『障害者差別を問いなおす』ちくま新書)
  
  

【池田先生の写真と箴言】
2004年8月、長野で
2004年8月、長野で

 皆、大宇宙のすべての財宝を集めた以上に尊い「生命」を持った、平等な存在である。「人権」といっても、決して難しいことではあるまい。この尊貴な「一人」を大切にしていくことである。他者を大事にする。他の生命を尊重する。その振る舞い、それ自体が人権の光である。そして、それは、鏡のように反射して、自分自身の生命を荘厳していくのである。
  
 ◆◇◆
  
 癒された平和な心から「謙虚さ」が生まれ、謙虚さから「聞く心」が生まれ、聞く心から「相互理解」が生まれ、相互理解から「社会の平和」が生まれる――。

 池田 大作
  
(上は『新・女性抄』、下は『君が世界を変えていく』)
  
  
  

 ※感想はこちらまで
 heiwanobunka@seikyo-np.jp

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